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失敗を解析、次回に生かす–「月面ビジネス」に挑み続けるispaceの不屈不撓

2023.06.14 08:00

田中好伸(編集部)

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 しかし、フィルター機能による判断ミスも回避できた可能性があるとispaceは解説する。着陸地点を変更したことに起因している可能性を挙げている。

 ミッション1のランダーは、2021年2月に詳細設計審査(Critical Design Review:CDR)を完了させている。CDRは、宇宙機の開発過程の中でミッションの要求からシステムの仕様を経て設計の結果までを妥当性や整合性、実現性などの視点からレビューする段階だ。このCDRで問題がなければ、実際に宇宙を飛行するためのフライトモデルの試作試験に移行できる。

 ispaceは、このCDRが完了した後で、ランダーの着陸地点をAtlas Craterに変更させた。

 ランダーに搭載されているGNCには、月面での航行ルートで想定される地形などを事前にシミュレーションした結果が取り込まれている。事前シミュレーションすることでランダーの状態やソフトウェアの判断を最適化できる。

 しかし、このシミュレーションでは、月面すべてを計算できるわけではない。シミュレーションに使うコンピューターのハードウェアや時間など資源(リソース)は無限ではない。限られたリソースの中でシミュレーションするしかない。この事前のシミュレーションにもっと時間をかけていれば、ランダーは月着陸に成功していた可能性がある。

 着陸地点の変更による影響を考慮するなど、ミッション1の成功に向けて必要と考えられる、可能な限りすべてを検証してきたとispaceは説明する。

 だが、実際には、月面での航行ルートで想定できる地形などの環境が、GNCを含めたソフトウェアに及ぼす影響の範囲を判断して必要十分に織り込むことができなかったとispaceは考えている。シミュレーションに「十分な時間を確保できなかった。プロジェクト管理の問題」と氏家氏は言い表している。

 着陸地点を変更したことでシミュレーションの量は不十分なものになった可能性も否定できない。着陸地点の変更で生じる問題を発見するまで検証することができなかった。

 「着陸地点を変更しなければ、別の地点を選んでいれば、うまく行っていたかもしれない」(氏家氏)

「チャレンジできる環境にあることを感謝」

 ここまでみてきたように、ispaceはミッション1のランダーの着陸失敗の要因を細かく分析している。その上で同社は、以下のような改善策を示した。

  • ランダーソフトウェアの詳細設計の更新
  • 着陸シミュレーション範囲の拡大
  • レーダーベロシメーターのフィールド試験の追加実施
  • 着陸要件の早期詳細化と徹底した事前シミュレーション

 改善策は、フライトデータを解析して浮かび上がった失敗の要因に対してそれぞれで改善策を出していることが分かるだろう。ミッション1は残念な結果に終わったが、HAKUTO-Rは今後ミッション2、ミッション3が予定されている。

 今回打ち出された改善策は、2024年3月末までの完了を予定。また改善策は、ミッション2の開発を進める上で必要とされるプロセスの一部として考えられることから、人員や時間などの工数は限定的と説明している。

 ミッション1では、打ち上げ前から10のマイルストーンを設定して、マイルストーンごとの成功基準(サクセスクライテリア)を設定している。これは、ミッションの途中で課題が発生しても、その事象だけを捉えて単なる失敗と評価しないという考えが背景にある。

 発生した課題と、それまでに獲得できたデータやノウハウなどの成果を正確に把握して、今後のミッション2やミッション3につなげていくことが持続可能な技術進化と事業モデルに必要とispaceは考えているからだ(日本の宇宙開発の父である糸川英夫氏の「失敗を成果と評価する」という考えを思い出す読者も多いのではないだろうか)。実際にミッション1で獲得したデータと次に向けた活用方針を示している。

ミッション1で獲得したデータと次に向けた活用方針(出典:ispace)
ミッション1で獲得したデータと次に向けた活用方針(出典:ispace)

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