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ソフトバンク、空飛ぶ基地局「HAPS」で大挑戦–衛星光通信で「容量問題」解決へ–アークエッジらと実証
2024.05.04 10:30
ソフトバンクは、成層圏に携帯基地局を浮かべる「HAPS」の新構想を明らかにした。HAPSのバックホール回線に「衛星光通信」の採用を目指すという。実現すれば地上局の場所に依存しないエリア構築や、通信容量の大幅な拡充が可能になる。
実現に向けて、情報通信研究機構(NICT)やアークエッジ・スペースらと光通信装置や実証衛星の開発を進め、2026年ごろの打ち上げを目指す。
HAPSとは
HAPSとは、高度約20kmの成層圏に無人飛行機を滞空させて、そこから山間部や離島、砂漠といった地域に携帯エリアを構築する構想だ。いわば「空飛ぶ基地局」と呼べるもので、飛行機の動力源としてソーラー発電とバッテリーを用い、地上への着陸は数カ月に1度とする。地上の基地局よりも高高度で見通しが効くため、30〜40機ほどで日本全域をカバーできるという。
なお、昨今は「衛星とスマートフォンの直接通信」にも注目が集まっている。「Starlink」の「Direct to Cell」はKDDIが2024年内の提供を予定しているし、AST SpaceMobieのサービスも楽天モバイルが2026年に提供する計画だ。
これらと比較したHAPSの優位性は、基地局となる飛行機の高度が約20kmと、衛星(高度500km)に比べて圧倒的に低い点だ。これによって、地上の基地局に引けを取らない通信品質を確保できるという。衛星通信も技術革新が進むが、HAPSほどの通信品質は確保できないとソフトバンクは見ている。
さらに、飛行機1つでピンポイントにエリアを構築できる点もメリットだ。Starlinkなどの地球低軌道衛星は90分で地球を1周するため、地上にエリアを構築するには複数の衛星を組み合わせたコンステレーションが必要で、構築にコストと時間がかかる。
なお、HAPSの実用化にはいくつか課題がある。機体の低コスト化やソーラーパネル、バッテリーの能力不足などがあるが、それ以外にも「HAPSの機体をどのように地上のインターネット網に繋げるのか」という課題があるのだ。
地上の基地局は光ファイバーでインターネット網に繋がるが、HAPSの飛行機に光ファイバーを繋ぐわけにはいかない。そこで、電波で地上局と通信する方式を検討したが、1機で数百kmのエリアをカバーするHAPSにとっては帯域幅が足りず、また地上局が近くにない場所に通信エリアを構築することができない。
宇宙に張り巡らされた「衛星光通信網」を活用
そこでソフトバンクが着目したのが、ここ数年で宇宙に張り巡らされつつある「衛星光通信網」だ。
衛星光通信とは、いわば光ファイバーの殻だけを取っ払い、中を通る光だけで通信する方法だ。宇宙には大気が存在せず、光を遮る障害物もほとんど存在しないため、光信号をファイバーに包まずにそのまま届けられる。
光通信は電波を使った通信よりも大幅な高速化が可能で、数十Gbps〜数Tbpsのデータ伝送を実現する。
また、昨今は複数の衛星間で光信号をリレーし、地球の反対側と光信号でやりとりすることも可能。衛星と地上局間での超高速な光データ通信の実証も進んでおり、いわば「宇宙の海底ケーブル網」と捉えると理解しやすいかもしれない。
この衛星光通信網にHAPSを繋いでしまおうというのが、ソフトバンクの新たな取り組みだ。これによって、HAPSが集めたスマートフォンなどからのデータを宇宙に流し、衛星間のリレーによってHAPSから遠く離れた地上局に下ろすことも可能だ。さらに、光通信は原理的に電波通信よりも高速なため、通信容量の高速化も可能だ。
成層圏飛行機への適用は「前代未聞」
HAPSを衛星光通信網に繋ぐには、HAPSと衛星間を光レーザーで結ぶ「双方向光無線装置」を開発する必要がある。一方で、衛星で実用化されている光通信をHAPSに適用するには困難が伴うという。
そもそも、宇宙の衛星には大気による振動は生じないし、一定の軌道を周回するため、光レーザーの照準を合わせ続けるのは比較的容易だ。しかし、成層圏を飛ぶHAPSは気流で振動するし、衛星のように正確に予測できる軌道もない。こうしたHAPSの機体と、猛スピードで地球を周回する衛星間で、光レーザーによる通信リンクを維持し続けるのは容易ではない。
そこでソフトバンクは、地球低軌道衛星とHAPSを結ぶ双方向光無線装置の開発に乗り出す。最先端の光無線通信装置を持つNICTと無線装置を共同開発し、アークエッジ・スペースが開発と運用を手掛ける6Uサイズの超小型衛星に搭載する。通信実証は2026年を予定する。
ソフトバンク 先端HAPS研究部 航空技術開発課の柳本教朝氏は「日本には光無線通信の技術が豊富という地の利がある」と説明した。ソフトバンク自らが光無線通信網を構築することは現時点では検討していないとも述べた。