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成層圏基地局「HAPS」はスターリンクに対抗できるか–NTTが是が非でも実用化したいワケ(石川温)

2024.05.03 09:19

石川温

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 大手携帯キャリアのうち、ソフトバンクは先端技術研究所において、飛行機による通信ネットワーク構築を実現する「HAPS」の開発を進めている。

 同社は2019年からHAPSの開発を始め、機体やバッテリー、モーター、アンテナ、通信技術などを研究すると共に、実用化に向けた航空制度整備に向けた取り組みを実施している。

 HAPSの飛行機は、上空20キロの成層圏をグルグルと円を描きながら飛行していく。上空から電波を飛ばすことで、地上にあるスマートフォンなどの通信が可能となる技術だ。

 最近ではNTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)と呼ばれ、6G時代に向けた技術として期待されている。

 ただ、一方でNTNにおいては、スペースX社のStarlinkが先頭を走っている感がある。

 Starlinkはすでに4000機を超える衛星を飛ばし、世界中で衛星によるブロードバンドサービスを提供中だ。日本でもKDDIを筆頭にソフトバンクやNTTドコモなどでも取り扱いを行う。

 現在、提供されているのはパソコンのモニター程度のアンテナを用いたブロードバンドサービスだが、2024年中にはスマートフォンとの直接通信を実現しようと新たな衛星を飛ばしつつある段階だ。アメリカではT-Mobile、日本でもKDDIがスマートフォンとの直接サービスを提供するとしている。

 Starlinkが商用サービスをすぐに始めようとしているなか、HAPSはいまだに技術開発中の段階だ。このままではNTNにおいてStarlinkが席巻する勢いがありそうだが、果たして、HAPSはStarlinkに対抗できるのだろうか。

HAPSの強みは「機動力」とソフトバンク

 ソフトバンクのHAPS担当者は「我々はコンパクトで機動力があるのが特長。Starlinkにはマネできないと思う」と語る。

 HAPSは全長80メートルの飛行機だが、もともと分割されたパーツとなっており、滑走路に持ち込み、組み立ててその場で飛ばすと言うことが可能だ。

 例えば、大災害などで地上の基地局ネットワークがダウンしてしまったようなときには、近くの滑走路にHAPSを運び込み、そこから離陸して、圏外の場所をエリア化してしまうことができるのだ。

 一方、Starlinkは、常に地上700キロのあたりを数千機の衛星がグルグルと飛び続けることでサービスが提供できる。いきなり、コストも膨大にかかるし、収益を上げるには世界中の国と地域でサービスを提供しなければならないのだ。

 その点、HAPSであれば、必要な場所にスポット的にHAPSを飛ばすだけでいいため、スモールスタートでサービス提供を始められるというわけだ。

NTTが”是が非でも”HAPSを実現させたいワケ

 実は実用化に向けてHAPSに取り組んでいるのはソフトバンクだけではない。NTTとスカパーJSATはSpace Compassという会社を作り、2025年度中の日本国内での実用化に向けてHAPSの開発を進めているのだ。

 昨今、日本全国に通信サービスを提供する「ユニバーサルサービス」について、今後、どうすべきかという議論が総務省で行われている。

 日本列島には離島や過疎地など、人があまり住んでいないエリアが多いが、現状では、そうした場所にも光回線を敷設し、電話などのサービスをNTTが提供しなくてはならない。

 NTTとしてはそうしたエリアを「モバイル回線」でサービス提供したいと考えている。空から携帯電話の電波を飛ばせれば、光回線を敷設しなくても、電話や通信サービスを提供できる。

 NTTは固定電話回線で年間、相当な赤字を抱えているだけに、是が非でもHAPSを成功させて、離島や過疎地でも電話や通信回線を提供できる環境を整備したいようだ。

日本での商用化はNTTが先行

 しかし、ソフトバンクでは「日本でのHAPSの実用化はいまのところ現実的ではない」というスタンスだ。

 なぜならHAPSは太陽光発電機を積み、バッテリーに充電しつつ、飛行を続け、通信を提供する。日本上空を飛行する緯度の場合、バッテリーや通信機器を搭載しつつ、長時間、飛行するには太陽光が足りないという課題があるのだ。飛行時間を短くするなど、サービスの品質を落とせば、日本での展開も可能のようだが、あまり現実的ではないようだ。

 ソフトバンクの担当者は「赤道直下に近い国からサービス提供していき、徐々に緯度を上げていきたい。技術開発を進めていき、将来的に日本での提供を視野に入れていく」としている。

 ソフトバンクが日本でのHAPS展開を慎重に見ているなか、NTTグループにはどんな秘策があるのか。日本国内を巡るHAPS開発競争に目が離せない。

 

 

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