衛星を軌道に乗せるのはロケットだけじゃない--ISS「きぼう」から2機の超小型衛星が放出

ニュース

衛星を軌道に乗せるのはロケットだけじゃない–国際宇宙ステーションから2機の超小型衛星が放出

2023.12.21 07:30

田中好伸(編集部)

facebook X(旧Twitter) line

 衛星を軌道に投入するのはロケットによる打ち上げをイメージしがちだが、ロケット以外の手段もある。国際宇宙ステーション(ISS)に運んで、ISSから軌道に乗せるという方法は意外と知られていないかもしれない。

 ISSに接続している日本実験棟(JEM)「きぼう」にある「小型衛星放出機構(JEM Small Satellite Orbital Deployer:J-SSOD)」から放出して、軌道に乗せることができるからだ。

 このJ-SSODから超小型衛星の「BEAK」と「Clark sat-1」が日本時間12月18日に放出された。

 BEAKとClark sat-1は、Space Exploration Technologies(SpaceX)の無人補給機「Cargo Dragon」に積まれ、日本時間11月10日にやはりSpaceXのロケット「Falcon 9」で打ち上げられた。ちなみに今回の打ち上げは、米航空宇宙局(NASA)がISSへの貨物や物資の輸送を民間企業に委託する「商業物資輸送サービス」(Commercial Resupply Services:CRS)の29回目となる(SpaceX CRS-29:SpX-29)。

 BEAK(Breakthrough by Egg-derived Aerocapture Kilt vehicle)は、大きさが3Uで重量が4kgの超小型衛星「EGG」(re-Entry satellite with Gossamer aeroshell and Gps/iridium)の後継となる衛星だ。EGGは2017年1月にJ-SSODから放出された。

 EGGに軌道制御機能を加えたBEAKは、衛星落下の原因となる空気抵抗を逆利用して飛行軌道を制御する技術「エアロキャプチャ」、大気圏飛行時に発生する熱(空力加熱)を逆利用して大気圏突入用シールドを広げる技術「形状記憶合金展開エアロシェル」などを実証する。

放出されるBEAK(出典:JAXA/NASA)
放出されるBEAK(出典:JAXA/NASA)

 推進装置として「水レジストジェット」も搭載し、軌道上での作動も実証する。水レジストジェットは、内部に貯めておいた液体の状態の水を蒸発させて水蒸気にして吹き出すことで衛星を動かす。

 サイズと重さはEGGとほぼ同じ3Uで4kg。エアロキャプチャやエアロシェルなどについて関係者は「大気圏に突入できる、さまざまな技術」を実証するためと説明する。今後「火星などの惑星探査で着陸する」ことを狙っている。

軌道に投入されるBEAKを見守る関係者(出典:JAXA/NASA)
軌道に投入されるBEAKを見守る関係者(出典:JAXA/NASA)

 もう1つの超小型衛星であるClark sat-1(愛称「Ambitious」)は重さが約0.94kgの1Uサイズ。クラーク記念国際高等学校(北海道深川市)の生徒が主体となり、2021年10月に開発を始め、2023年3月に完成した。

 2022年12月に、衛星管制に必要な基地局アンテナを「Clark Next Tokyo」(東京都板橋区)に設置。放出から1カ月程度で運用が開始する予定。運用は、Clark Next Tokyoの管制局でアマチュア無線従事者免許を取得した生徒らが担う。Clark sat-1のミッションで設定されているマイルストーンは以下の通り。

  • ミニマムサクセス:ISSからの放出成功(※すでに成功)
  • フルサクセス:Clark sat-1との通信成功
  • エクストラサクセス:衛星搭載カメラで地球の撮影。衛星に搭載した音声やイラストデータを衛星から受信
  • エクストリームサクセス:「実現可能性は極めて低いが、生徒の意思によりチャレンジする」スペースデブリ(宇宙ゴミ)の撮影
放出されるClark sat-1(出典:JAXA/NASA)
放出されるClark sat-1(出典:JAXA/NASA)

 Clark sat-1の開発はクラーク記念国際高校がSpace BDと東京大学 大学院 工学研究科が協力しながら進めてきた「宇宙教育プロジェクト」の一環。プロジェクトはさまざまな課題解決を宇宙視点で考えて実行できる、未来のリーダー人材育成を目指し、2021年7月に開始した(開発にはアークエッジ・スペースも協力している)。

Clark sat-1の放出を喜ぶ関係者(出典:JAXA/NASA)
Clark sat-1の放出を喜ぶ関係者(出典:JAXA/NASA)

 きぼうを運用する宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、J-SSODを利用するメリットを以下のように説明する。

  • ISS向けの船内貨物として打ち上げられるため、ロケットに搭載して打ち上げる場合と比較して、震動などの打ち上げ環境条件が緩和
  • 各国のISS向け輸送機が利用可能なため、打ち上げ機会が多い

 J-SSODは、キューブサット規格(10cm×10cm×10cm)、50kg級の超小型衛星をきぼうのエアロックから搬出して宇宙に打ち出して軌道に乗せるための仕組みだ。キューブサット規格の放出では、繰り返し利用できる「軌道上装填型衛星放出機構」(JEM Small Satellite Orbital Deployer Resuppliable:J-SSOD-R)を導入している。対象となる超小型衛星は打ち上げケースに搭載され、ISS内で滞在クルーがJ-SSODに移設する。

 放出可能な最大サイズは6U、W6Uとなっている(キューブサット規格衛星=縦10cm×横10cm、高さがそれぞれ1U:10cm、2U:20cm、3U:30cm、4U:40cm、5U:50cm、6U:60cm。W6U:縦10cm×横20cm×高さ30cm。50kg級衛星=55cm×35cm×55cm)。

J-SSODの概要(出典:JAXA)
J-SSODの概要(出典:JAXA)

 これまでに九州工業大学などが開発したW6Uの「KITSUNE」、自動車部品や衛星部品などを手がける中小メーカーである原田精機(静岡県浜松市)が開発した3Uの「HSKSAT」、アークエッジの「OPTIMAL-1」などがJ-SSODから放出されている。

 J-SSODから衛星を放出したい企業などに対応する窓口はSpace BDと三井物産エアロスペースに放出枠の7割が事業移管されている。研究開発や人材育成に加えて、商業利用を目的にした衛星放出も可能になっている。

 J-SSODからの衛星放出は日本だけを対象にしているわけではない。

 きぼうを運用するJAXAは国際連合(国連)宇宙部(United Nations Office for Outer Space Affairs:UNOOSA)とともに連携プログラム「KiboCUBE」を2015年9月に立ち上げた。打ち上げの手段を持たない開発途上国の教育機関や研究機関の衛星放出の機会を提供してきている。KiboCUBEを利用してインドネシアのスーリヤ大学が開発した「Surya Satellite-1(SS-1)」が放出されている。

 2020年12月にはUNOOSAとの連携協定を延長し、衛星を放出する機会を追加するとともに、超小型衛星の開発から運用、利用までのライフサイクル全般を学ぶ機会として「KiboCUBEアカデミー」を連携して提供している。

関連リンク
JAXA発表

Related Articles