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「革新的固体燃料」を開発するロケットリンクと協力する北海道企業が描く未来
「低融点熱可塑性推進薬(Low melting temperature Thermo-elastic Propellant:LTP)」と呼ばれる、ロケットの固体推進薬を開発するロケットリンクテクノロジー(相模原市中央区)は4月に設立。LTPは、固体ロケットの製造プロセスをシンプルにできるものとして期待されている。
「革新的」と期待されるLTPは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)傘下の宇宙科学研究所(ISAS)が開発したものであり、ロケットリンクは、JAXAが保有する知的財産や知見を活用した事業を展開するJAXAベンチャーとして認定されている。8月9日には設立記者会見を開催。あわせて植松電機(北海道赤平市)との協力協定調印式も執りおこなった。
ロケットリンクの経営陣は「M-V(ミューファイブ)」や「イプシロン」といったロケットの開発に携わり、終了後は15年におよぶLTPの研究開発に取り組んできた。そして、この4月の法人設立に至る。
設立記者会見でロケットリンク 最高技術責任者(CTO)である堀恵一氏は「15年以上の長い年月、研究活動を重ねてきた。北海道のDNAである開拓者精神を持つ植松電機との協力は、大きなアドバンテージであると同時に喜ばしく思っている。北海道の皆さんともタイアップを強めて共通の志、共通の価値観で一緒に世界と戦っていきたい」と意気込みを語った。
『下町ロケット』の世界観でロケットを製造
4月にJAXAベンチャーに認定されたロケットリンクは、2024年中の打ち上げを目指しているロケット「LTP-135」のモーター地上燃焼試験を進めている。同社は、LTPを応用した観測ロケットや小型衛星用ロケットを開発するとともに「STEM(Science、Technology、Engineering、Mathematics)」教育の促進も事業の一環としており、STEM教育に絡んで“モデルロケット”用の低価格な固体燃料エンジンの開発も進めている。
ロケットリンク 最高経営責任者(CEO)である森田泰弘氏は「『リンク』は特別な意味がある。ロケット開発を通じて人と人をつなげて宇宙で活躍する仲間を増やし、時代を超えて大切なものを受け継いでいきたい。ロケット開発を産業振興、教育活動につなげていきたい」と社名の意味を説明した。
ロケットリンクのコア技術はLTPだ。従来の固体ロケット燃料は「ドロドロの樹脂に火薬の粒を混ぜて、熱を加えて固めている。長時間の熟成も必要で約4週間かかる。一度固めると元に戻せない。そのため作業は精密かつ特殊な工程」(森田氏)が必要という。
しかし「LTPは長く見積もっても自然放熱は3日程度。製造装置も10分の1。(大手メーカーに限らず、テレビドラマの)『下町ロケット』の世界観で製造できる」と森田氏は利点を説明した。
ロケットリンクは事業の方向性として、世界的なロケット不足を踏まえた観測ロケットや小型衛星用ロケットの開発や打ち上げ促進、LTP技術を多様な事業へ展開する産業支援を目指している。
モデルロケット用の低価格な固体燃料エンジンの開発も進めるが、その背景として、教育用モデルロケットが不足していることを挙げている。モデルロケットが飛行する原理は、本物のロケットと同じであることから、ロケットを開発したり、打ち上げたりできる人材を教育するために必要不可欠とも言える。
モデルロケットは、少量の火薬を推進剤にした専用の電気点火式エンジンを使用しており、世界各地の教育の現場で打ち上げられている。モデルロケットはまた、回収装置を備えており、同じ期待を繰り返し利用できることもメリットの一つとされている。
ロケットリンクの協力先となった植松電機は、従業員数31人と小さな企業だが、2015年からISASとLTPの研究と開発に携わっており、モデルロケットを販売するとともに燃料の開発にも取り組んでいる。ロケットリンクの森田氏は「(燃料)カートリッジは輸入品に頼り、供給すら安定していません。ここに我々のLTPを用いたものをライセンス販売すれば、安価かつ安定供給が可能」と利点を説明した。
植松電機は、建設機械などに搭載できるタイプの低電圧電磁石システムを設計、製造、販売しているが、事業の一環として、モデルロケットを活用したロケット教室も提供している。質量が2.7kgという衛星「HIT-SAT(ヒットサット)」の開発にも携わっている。
“ナノサット”であるHIT-SATは、構造系と姿勢制御系を北海道大学が、電源系と通信系を北海道工業大学が、分離機構と部品制作を植松電機が開発。2006年9月にM-Vロケット7号機で打ち上げられ、周回軌道に投入された。オール北海道で開発、製造された道産子衛星であるHIT-SATは民生部品で構成、民生部品でも軌道での使用に耐えられることを証明した。
植松電機の代表取締役である植松努氏は、名古屋で航空機を設計する企業に入社した後に、父が経営している同社に入社。北海道大学大学院の研究者と知り合い、植松電機としてロケット研究を全面支援することを決めた。
植松氏はロケットリンクとの協力関係について、以下のように意義があるとコメントした。
「私が3歳のときにアポロ14号が月面着陸したが、視聴していた祖父が大きく喜び、(自分自身は)飛行機やロケットが大好きな子どもになっていた。現在はリサイクルマグネットやトンネル掘削機の自動化と並行して、モデルロケットや微小重力実験関連機器を提供している。多くの研究者が実験にやってきたが、資金不足で実験、研究できないのは惜しい。我々の技術で安価に研究し、やがて研究者が奇跡を起こすと思っている。その奇跡が人類のプラスになる」
洋上や空中での発射にも取り組む
前述の通り、ロケットリンクはLTPを有効活用した小型衛星用打ち上げロケットの開発に取り組んでいる。搭載容量は太陽同期軌道(SSO)で100~200kg。教育系や民間利用を想定しているが、価格は競合他社との兼ね合いから数億円レベルと明確にしていない。「(教育系顧客を対象にした)LTPで技術レベルを高める」(森田氏)
前述したLTP-135の他に高度100km程度を目指す「LTP-210」の打ち上げを2026年1月ごろ、本番機となる「LTP-L」のSSO打ち上げを2028年3月ごろに予定している。洋上発射や空中発射といった打ち上げ方式にも取り組む予定であることをロケットリンク 最高マーケティング責任者(CMO) 和田豊氏が明らかにした。
洋上発射について和田氏は「ロケット軌道の選択やステークホルダーとの調整も短縮できる。ASTROCEANと共同して発射実験に取り組んでいるが、千葉工業大学と開発した30kg級の観測ロケットを洋上で打ち上げた」と言及した。
空中発射についても「ロケットを気球で高高度まで輸送して打ち上げると、約2.5倍の能力を引き出せる。現在AstroXとともにロケットの挙動や姿勢の乱れなど基礎研究を重ねている」(同氏)