インタビュー

SpaceX「Falcon 9」で日本初の衛星打ち上げサービス–宇宙商社Space BDが目指す宇宙ビジネスの未来

2022.01.20 08:00

田中好伸(編集部)阿久津良和(フリーライター)

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 複数あると思いますが、一つは教育。宇宙と教育の結び付きには必然性があります。人工衛星を実際に作って打ち上げ、その課程にある安全審査などの要件を満たすプロセスを追体験する教育はユニークです。世に(仮想的な宇宙空間を想定した)アイデアコンテストは少なくないですが、リアルを求める顧客も少なくありません。

 そこで、2021年7月からクラーク記念国際高等学校(北海道深川市)、東京大学と一緒に「宇宙教育プロジェクト」を創設し、宇宙を活用した人材育成を目指すためのプログラムを支援しています。他にも学習院大学の全学部生を対象にした、スタートアップビジネスを学ぶセミナー「宇宙ベンチャー概論」を提供しており、私自身も登壇して、アントレプレナーシップ(起業家精神)と宇宙ビジネスとの広がりを語りました(2021年12月にオンラインで開催)。

 自身のリアルを伝えることが気付きのきっかけになればと思っています。自分も関係者に迷惑をかけてきましたが、「あの背景にはこんな失敗があった」「この案件はこんな縁があって生まれた」という経験に無駄はなく、死屍累々の中にイノベーションが生まれるのだという話をしています。

 もう一つは、ブランディング(ブランド構築)です。2021年10月の発表でも、瞬間接着剤「アロンアルフア」で有名な東亞合成、損害保険ジャパンなど多くの企業に参画していただいたことを公表しました。宇宙という先端に挑む企業、あるいは技術力を保有する企業であることを表明できます。宇宙ビジネスの領域で企業がブランディングやマーケティングに活用するケースも面白いです。

 さらにもう一つが、エンターテインメント。これまでも宇宙は政府が主導でB2B(企業間取引)に取り組んできましたが、宇宙を身近に感じてもらうには個人が楽しめなければいけません。われわれも一つずつ事例を作ろうと取り組んでいます。

 (小回りが利くという意味で)「きぼう」が一番いいですね。例えば、定期便に遅れが生じると、宇宙飛行士を待たせられないため、3カ月に1本は飛ばさないといけません。ロケットを仕入れるのは一苦労です。ですが、ISSなら日本からの打ち上げとタイミングが合わなくても米国に送って「そちらで打ち上げてほしい」と頼めます。

「Falcon 9」での打ち上げサービス

――2021年12月に全既存株主とシンガポール政府系機関投資家から10億円超の資金調達を実施しましたが、今後はどのような企業を目指すのでしょうか。

 2021年はビジネスとして正しいと思ってきたことが確信に変わった年でした。無限の可能性を感じています。

 他方、多様なプロジェクトを立ち上げたいものの難易度は高いです。前例がないビジネスを発想し、仕掛け、顧客を巻き込んでプロジェクト化させる、これが社内でどんどん立ち上がるようになるまでには、強いチームを作る必要があります。一言で申し上げれば、よい人材を魅了でき、躊躇せずに採用できる状態を作り上げるのが(Space BDの)生命線だと思っています。

 さらに先行してSpace BDによる発注が必要な案件など、ある程度のキャッシュが手元にないと心もとないです。10億円というのは、自分の「さあ行くぞ」という意気込みの表れです。先日、SpaceXの「Falcon 9」ロケットを活用した衛星打ち上げサービスを発表しましたが、従来はJAXAの利用権に基づく国産機会を販売していました。

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