インタビュー

SpaceX「Falcon 9」で日本初の衛星打ち上げサービス–宇宙商社Space BDが目指す宇宙ビジネスの未来

2022.01.20 08:00

田中好伸(編集部)阿久津良和(フリーライター)

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 しかし、打ち上げ頻度や軌道に関する多様な要望を持つ顧客が少なくありません。国内は地球を縦に回る極軌道を好む顧客が多く、Falcon 9の衛星打ち上げ枠利用権を仕入れた理由の一つです。その空き枠1枠が1億円以上、搭載に必要なアダプターの設置などを含めると1回3億円ぐらいかかる。そうなると10億円ぐらいないと、一気にアクセスを踏むことができません。

 感謝したいのは、既存株主全員が二つ返事で増資に同意してくれたこと。さらにシンガポール政府系機関投資企業のPavilion Capitalに話を持ちかけたところ、意気投合して話がスムーズに進んだことです。国内では宇宙ビジネスが過熱気味だと冷やかす方々もいますが、グローバルのティアワン投資家もわれわれのビジネスモデルに参画してくると、すごく勇気づけられます。

宇宙で町おこし

――Falcon 9の打ち上げサービスは現時点で2022年10月を予定しています。日本初とのことですが、契約までにどのような苦労がありましたか。

 それなりに大変でしたが、SpaceXがわれわれを認知し、実績があったので(苦労とまでは言いがたい)。実はSpace BD創業直後にFalcon 9担当のセールス副社長に挨拶し、知己を得ていました。(今回の契約時も)彼に声をかけて担当者をアサインしていただき、そこからコミュニケーションがスタートしました。(Space BDの実績を)メールしていたのも大きいです。

 もともとSpaceXは小型衛星を一件一件相手することが難しく、ロケットを一本丸々購入してほしい。200kgを最小単位で切り売りする代わりに、技術調整などエンドユーザーのサポートなどは仲介事業者が責任を持つという仕組みになっていました。

 ですが、Falcon 9は低周回軌道(LEO)に最大20トン級のペイロードを打ち上げられるのに、われわれの顧客は5kgや10kgの衛星を打ち上げてもらいたい。そのため、顧客需要を束ねる仲介事業者が必要になります。

 例えば、顧客の衛星開発に遅延が生じて、自ら仕入れたロケット搭載に間に合わない場合、手配したロケット枠が無駄になり、新たに次のロケット手配が必要となります。それが、弊社経由であれば複数の輸送手段を有するため、調整して、次の打ち上げに回すことができます。(今後の宇宙ビジネスにおいて仲介事業は)構造的に残っていくビジネスモデルです。

 JAXAと仕事をする際は、JAXA流の技術用語に付き合える専門家が必要でした。ですが、Space BDが間に加わることで、よいアイデアがあれば「技術面はわれわれがカバーする」と言えるようになったのは、宇宙産業全体の大きな前進になったと捉えています。

 最近は「宇宙を使って町おこしをしたい」という話も増えてきました。どのように宇宙ビジネスへ参入するか一緒に考える姿勢で取り組んでいますが、肌感覚として宇宙が遠いようで「何かやりたいんだけど、何をどうしていいか分からない」というお題がくることも少なくありません。

 そこで、われわれは県庁や地場産業の方々を集めて勉強会を開いて、「分からなくて当たり前」という地点から始めています。実態を知ってもらえれば、地に足の着いた議論が開始できます。過大な期待感、逆に過剰に難しさを感じているケースは多く、そのギャップを埋めたいですね。

 最近われわれは、チャレンジングな企業や事業の原動力という意味で「スペース・エンタープライズ・ドライバー」を自称し始めました。宇宙の事業開発はパッケージ化できない部分があり、手探り状態に耐えられ、かつ能力の高いチームが必要です。

 また、多様なビジネスモデルに対応できるのは当社独自で、グローバルの企業は効率性を考慮して進出してこないでしょう。当然、衛星打ち上げサービスを事業として切り出すと、競合企業も老舗企業も存在しますが、「何でも屋」をやろうとするのは弊社だけだと思います。

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