特集
光通信や量子コンピューター–衛星データ処理効率化を目指す企業の立ち位置
2022.08.30 08:30
7月21日に事業が始まったSpace Compass(NTTとスカパーJSATの合弁会社)の松藤氏は、モデレーターから事業の優位性について聞かれると、「最大のメリットは経済性。理論的には3台の衛星でグローバルを全部カバーできる。不利というほどではないが、技術的なハードルは高い。(ただ、今後は)光通信ターミナルなど光通信を補完する技術を用いれば、解決策は見つけられる」と今後の技術革新の可能性に期待を寄せた。
「量子コンピューティングが次のステップ」QSTC
モデレーターが「光通信ターミナルはホットなトピック。この数カ月、大手企業も参入している」と市場需要の高まりを投げ掛けると、ワープスペースの常間地氏は「光通信宇宙においては現在も巨大なニーズがある。大きいどころではない。だが、供給側を見ると参入する技術力の高さがハードルとなり、プレーヤーは限られている。他方でうれしいのは、Space Compassも2024年度の(光データリレーサービス)立ち上げを予定している。宇宙産業全体をカバーするわけではないが、ほとんどのデータニーズはカバーできると思う」と高い需要と参入ハードルの高さを指摘。Space Compassの松藤氏も「市場を独占する必要はない。多様なサービスで共存したい」とコメントした。
独自の宇宙関連技術を通じたサービスを提供しているQSTCのChohan氏は「量子(コンピューティング)は重要。エッジコンピューティングでカバーできるため、量子コンピューティングが次のステップだ。目の前の課題は、QKD(Quantum Key Distribution:量子鍵配送)の処理スピードやハイエンドなターミナルを製造するコスト」と説明した(量子鍵配送は、光ファイバーの伝送路で1ビットあたり1個の光子に鍵情報を載せて伝送することで安全に暗号鍵を共有する技術)。
Chohan氏は続けて「例えば、QKDは世界的なテレコムシステムが参入し、大きなディスラプションを起こしたが、ビリオン級の機会損失を生み出した。GPSのセキュリティ問題やオンボードシステムの限界もある。屈強で効率的、そして安全なコンピューティング技術により、市場で破壊的な機会損失が拡大しているが、資金面は恵まれつつある。ここに量子コンピューティングやQKDが加わるのは一つの強みだ」と語った。
「ただ、多くの企業は取り組んでおらず、信頼性も乏しい。最終的に二十数台の衛星で使われれば実証にもなる。おそらく5~10年で実現するだろう」(Chohan氏)
標準化や規制をどう考えるのか
話題が標準的な周波数利用の話題におよぶと、現時点で存在しない国際的な標準化について、OrbitsEdgeのWard氏は「最大の問題は標準化を策定するのが政府であるということ。技術が未熟な段階で凍結するのではなく、すでに利用されているものを確認し、承認だけで構わない」と主張した。
続けてWard氏は「われわれのCOTS(Commercial Off The Shelf)は地上で利用されているエッジコンピューティングを宇宙で利用し、地上と同じ経験を得ようとするアプローチ。(必然的に)標準化済み機器を使うのだが、標準化は(現時点で)不要だ。現在宇宙ステーションに関わる企業と議論を重ねているが、変化をもたらすコンピューターハードウェア(の可能性)。数年間は外郭も同じだろうが、CPUやGPU、ストレージを数分間で(構成を)変更し、ミッションや用途に応じて変更するラックタイプのアーキテクチャーを考えている」と持論を述べた。