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既存暗号にリスク–スカパーJSATが挑戦する「衛星量子暗号通信」の可能性
イメージしやすいように具体例を挙げよう。
例えば金融取引では、遅延のない高速通信と秘匿性の両立が必要とされる。通信の安全を確保する上で、金融取引への量子暗号の導入は有効だ。しかし、光ファイバーでは伝送距離に限界があるので、長距離での鍵配送に使用することはできない。
そこで、衛星による量子鍵配送を用いれば、伝送距離の制約を克服し、シンガポールとニューヨーク間のような超長距離での金融取引にも利用することができる。医療分野では個人の病歴、将来的にはゲノム情報そのものを国境を超えてやり取りすることが考えられる。
そのような通信では、個人情報保護の観点から高い秘匿性が求められるので、ここでも衛星量子鍵配送が大いに活躍する可能性がある。
加えて北窪氏は、既存の通信における潜在的な攻撃リスクについても指摘した。
「情報が氾濫する中で、将来的に盗聴者に攻撃されるリスクがあるが、見逃されている情報も多いと考えています。その意味では、衛星量子鍵配送の安全性は、今後ユニークかつ大きな価値をもたらすと思います」(北窪氏)
事業化に向けた展望と課題
衛星量子鍵配送の事業化に向けて、同社はどのような道筋を描いているのだろうか。実際のところ、いくつか解決すべき課題が存在している。
まずは技術的課題だ。地上側の受信装置は、現状、屋上や移動体への設置が困難なほどの大きさであり、事業化にあたっては小型化の検討が急務である。衛星量子鍵配送の超長距離伝送を生かすには、地上側の受信装置を小型化し、可搬性を持たせることが必要だ。また船舶などへの搭載を考えると、擾乱(揺れ)対策も欠かせない。
次に解決すべき課題は、市場の開拓だ。実際のところ、衛星量子鍵配送は、当面は通信の物理層から独自に構築しているような大掛かりな事業、即ち政府機関による利用に限定されるだろう。
まずは、企業と政府機関の取引(BtoG)での利用実績を積み重ねながら、コストなどの導入障壁の低減や潜在ユーザーの発掘、協業先・パートナーの巻き込みを進め、徐々に企業間取引(BtoB)市場を開拓していくことが、同社の描く展望だ。
「衛星量子鍵配送は、日本も含め各国が社会実装に向けた検証をしている段階です。今はまだ実証実験の段階ですが、今後数年以内には社会実装が進むと考えられます。弊社もその時間軸に沿って、乗り遅れないように事業化していきたいと考えています」(横手氏)