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既存暗号にリスク–スカパーJSATが挑戦する「衛星量子暗号通信」の可能性

2022.05.04 08:00

田中好伸(編集部)、鍋島理人

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 スカパーJSATは、2018年から総務省が進める量子暗号技術の研究開発プロジェクトのうち、衛星に関連するプロジェクトに参加している。量子コンピューターの発展により既存の暗号技術のリスクが高まる中、衛星量子暗号通信はどのような役割を果たすのか。中核技術となる「衛星量子鍵配送」を軸に、そのメリットや事業化に向けた展望を解説する。

中国が先行、アメリカが方針

 暗号通信は、現代のインターネットを支える重要な技術だ。しかし、2030年頃に量子コンピューターが実用化されれば、現在のオンライン取引などの通信の安全性が損なわれるリスクが懸念されている。

 スカパーJSAT 宇宙事業部門 宇宙・衛星事業本部 宇宙・防衛事業部 宇宙チーム長 田中賢太郎氏は「量子コンピューターは特殊な用途に限定されると言われますが、暗号解読は、まさに量子コンピューターの得意な分野です。既に量子コンピューターによる解読アルゴリズムが発明されており、差し迫った問題になっています」と話す。

 その対策の一つとなる技術が量子暗号だ。これは、物質の量子論的性質に基づき暗号鍵を生成することで、絶対に計算不可能な暗号を作り出し、通信の安全性を保証する技術だ。

 しかし、光ファイバーによる量子暗号では伝送距離に制限がある。そこで注目されているのが、衛星を使った量子暗号通信(衛星量子鍵配送)だ。

 このような背景の下、現在世界各国は衛星量子鍵配送の研究開発に取り組んでいる。

 特に中国は2017年に衛星実証実験に成功するなど、急ピッチで技術開発を進めている。一方、シンガポールは2019年に実証用の衛星を国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」から放出した。また欧州、カナダ、米国、英国は2022年頃の衛星実証の実施を予定している。

 先行する中国に対し、アメリカは衛星量子暗号技術で世界をリードする方針を表明しており、日本でも国家戦略と位置づけられている。

衛星量子暗号を巡る世界動向(出典:スカパーJSAT)
衛星量子暗号を巡る世界動向(出典:スカパーJSAT)

最も早く実現できる見込みが高い

 日本での衛星量子鍵配送の事業化に取り組んでいるのが、スカパーJSATだ。衛星量子鍵配送に取り組む理由について、同社 宇宙事業部門 宇宙・衛星事業本部 宇宙・防衛事業部 宇宙チーム 北窪雛氏は次のように話す。

 「1つ目の理由は、量子技術の中でも、量子鍵配送が最も早く実現できる見込みが高いからです。2つ目は、衛星通信事業者として、それまでの衛星通信における強みを最大限に生かし、既存のビジネスに付加価値を創出するとともに、より秘匿性の高い通信を求める顧客のニーズに応えるためです。3つ目が、通信事業者として、情報セキュリティ上の脅威、具体的には量子コンピューターによる暗号解読の懸念に対処する必要があるからです」

スカパーJSAT 宇宙事業部門 宇宙・衛星事業本部 宇宙・防衛事業部 宇宙チーム 北窪雛氏
スカパーJSAT 宇宙事業部門 宇宙・衛星事業本部 宇宙・防衛事業部 宇宙チーム 北窪雛氏

衛星量子鍵配送の仕組み

 衛星量子鍵配送と、通常の暗号通信との違いは何だろうか。まずは、通常の通信における暗号の仕組みについておさらいしよう。

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