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既存暗号にリスク–スカパーJSATが挑戦する「衛星量子暗号通信」の可能性

2022.05.04 08:00

田中好伸(編集部)鍋島理人

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 暗号方式には「公開鍵暗号」と「共通鍵暗号」という2つの方式があり、実際のインターネット通信では、両者を組み合わせたSSL暗号方式が広く使われている。

 共通鍵暗号は、通信内容の暗号化に用いられる方式で、受信側と送信側でAES暗号などの鍵を共有し、暗号化と復号化を行う。

 その共通鍵の受け渡しに使われるのが公開鍵暗号だ。

 まずは受信側が公開鍵と秘密鍵を生成する。受信側は送信側に公開鍵を共有し、送信側はその公開鍵で暗号化したデータを送信する。最終的に受信側は、自分しか知らない秘密鍵でデータを復号化する。

 これらの鍵生成には「RSA」というアルゴリズムが用いられている。通常のコンピューターでは、RSA暗号を解読するには天文学的な時間を要する。しかし量子コンピューターが登場すると、実用的な時間内でRSA暗号を解読できることが、情報セキュリティでの懸念点となっている。

公開鍵暗号と共通鍵暗号(出典:スカパーJSAT)
公開鍵暗号と共通鍵暗号(出典:スカパーJSAT)

 そこで衛星量子鍵配送では、量子力学の原理を利用して、予測不可能な真正乱数を衛星側で生成する。それらの情報は、光子1粒1粒の持つ量子情報として地上局に送信される。

 地上局で共有された情報を取捨選択し、最終的な鍵となる乱数配列を生成する「鍵蒸留」という工程が行われる。盗聴が発生した際は、量子論的の原理によって検知することができ、盗聴されたデータは鍵の材料として使用されない。その結果として、絶対に解読不可能な鍵を生成することが可能だ。

衛星量子鍵配送のイメージ(出典:スカパーJSAT)
衛星量子鍵配送のイメージ(出典:スカパーJSAT)

 解読不可能性に加えて、衛星を使用するメリットとして北窪氏が挙げるのが、耐災害性と伝送距離だ。

 「人工衛星は宇宙空間にあるので、地上にいる人間が勝手に入り不正アクセスを行うことはできません。また伝送路は有線でつながれていないので、災害発生時に寸断される恐れがありません。加えて、光ファイバーによる量子鍵配送では、数十〜数百kmの伝送が限度と言われていますが、衛星を使うと、理論的には世界中のどこであっても鍵配送を行うことが可能です」(北窪氏)

衛星量子鍵配送のユースケース

 それでは衛星量子鍵配送は、どのようなユーザーやユースケースを想定しているのだろうか。同社 宇宙事業部門 宇宙・衛星事業本部 宇宙・防衛事業部 宇宙チーム アシスタントマネージャー 横手紗織氏によれば、「2018年から弊社でも調査を続けていますが、まず安全保障に関わる通信など、外交や軍事における政府系組織の利用が考えられます。また金融や医療のように、絶対に秘匿性を維持する必要がある通信を行う企業にも、一定のニーズがあるでしょう」とのことだ。

スカパーJSAT 宇宙事業部門 宇宙・衛星事業本部 宇宙・防衛事業部 宇宙チーム アシスタントマネージャー 横手紗織氏
スカパーJSAT 宇宙事業部門 宇宙・衛星事業本部 宇宙・防衛事業部 宇宙チーム アシスタントマネージャー 横手紗織氏

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