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電力需給バランス調整で期待される日射量予測「Solar Meilleur」の独自性
観測と報告の作業を自動化したい――。こうしたニーズを受けて、スカパーJSATは商船三井や古野電気とともに、海上気象観測を自動で観測するとともに自動で送信するシステムを開発した。
3社で開発したシステムは、船舶に測定機器を搭載し、通信衛星を経由してデータを自動収集する。スカパーJSATは、雲を撮影するカメラを開発するとともに気象庁に報告する「船舶気象観測表」や「船舶気象報」を自動で報告するシステムなども開発した。
観測、測定されるデータは時刻や位置、気温、海面気圧、気圧変化、波高、雲底高、雲量、雲の状態などが衛星通信で送信される。そしてスカパーJSATは“雲識別AI”「KMOMY(くもみ)」も開発した。
気象庁への報告では、気象庁が定めている「船舶気象観測指針」に基づいて雲の形状や状態を区別する必要がある。
雲が発生する高さや形は世界気象機関(WMO)によって巻雲(すじぐも)、巻積雲(うろこぐも)、巻層雲(うすぐも)、高積雲(ひつじぐも)、高層雲(おぼろぐも)、乱層雲(あまぐも)、積雲(わたぐも)、層積雲(くもりぐも)、層雲(きりぐも)、積乱雲(にゅうどうぐも)という10種類に分類されている。さらに27の状態、10段階の雲量も判別する必要もある。
しかし、雲の形や状態は曖昧なために「専門家でも判断に迷う」(小渕氏)
こうした背景から開発されたのが、雲を識別するためのKMOMYであり、 写真に映る雲を機械学習したAIは、WMOが定める雲の観測項目「10種雲形」「27雲状態」「10段階の雲量」を判別する。
KMOMYなどを気象観測ではなく太陽光発電の「日射量予測に活用しよう」と発想を転換して生まれたのがSolar Meilleurだ。Solar MeilleurでスカパーJSATが開発しているのが、地上センサーとなる「そらたまご」だ。
地上センサーのそらたまごは現在も設計中であるものの、基本的には空を広角で撮影するカメラと日射計が搭載されたIoTデバイスとなる。先行プロジェクトとなる船上の観測機器は荒海の環境に耐えるために堅牢性重視の武骨なデザインとなっていた。しかし、そらたまごの場合、太陽光発電の周辺に設置し「人目に触れるため、卵のようにかわいい見た目となるようにデザインしている」(小渕氏)
雲識別AIのKMOMYはそらたまごの天球画像を解析して、雲を識別する。Solar Meilleurでは雲の特徴を抽出するだけではなく、時系列での差異を検出することで雲の流れや挙動も算出し、日射量予測に役立てている(やや余談になるが、派生したサービスに「くもろぐ」がある。雲を撮影して投稿するとKMOMYが雲を識別したり、利用者が投稿した雲とその分類を閲覧したりできる。子どもたちが雲に興味を持つ、いいきっかけになりそうだ)。