特集
JAXA駐在員事務所が見た海外宇宙ビジネス–宇宙の民営化とイノベーションが進むアジア太平洋地域
2022.11.29 08:00
シンガポールは東南アジアの金融センターとして大きなプレゼンスを発揮しているが、金融取引はITの発達によって安全性も問われるようになっている。金融取引の安全性を高めるために、量子鍵配送(Quantum Key Distribution:QKD)によって盗聴を防ぐ量子暗号通信が注目されているが、超小型衛星と地上局を結ぶ量子暗号通信を手掛ける企業もシンガポールに登場している。
地理的優位性を生かすオーストラリア
オセアニアに位置するオーストラリアは、石炭や小麦、羊毛などの一次産業が歴史的に長いが、政府は「一次産業に頼っているばかりでは将来が見えない」と認識、より高次の産業が必要と判断、この流れを受けて宇宙も注目されるようになっている。
オーストラリアは四方を海に囲まれているが、この地理的優位性を生かすことができる。具体的には、開けている南部や東部をスタートアップ企業による射場として活用するようになっている。実際に、NASAの観測衛星は、オーストラリアのスタートアップ企業が運営する射場から打ち上げられた。
財閥主導で進める韓国
韓国の宇宙機関である韓国航空宇宙研究院(Korea Aerospace Research Institute:KARI)は未来創造科学部傘下にある。1990年から固体燃料ロケットの開発を開始。2002年には液体燃料ロケットを打ち上げている。
2002年にはロシアと共同で固体燃料の衛星打ち上げロケット「羅老号」(Korea Space Launch Vehicle-I:KSLV-I)の開発を開始。1号機と2号機の打ち上げは失敗したが、2013年に3号機の打ち上げに成功している。羅老の後継となる液体燃料ロケット「ヌリ」(KSLV-II)は韓国が独自で開発している。2021年に1号機を打ち上げたが、軌道投入に失敗。2022年の2度目の打ち上げは成功し、軌道投入にも成功している。
韓国も2021年に「宇宙活動も経済に貢献できる部分は積極的に民営化すべし」と大きく方針を転換している。
宇宙分野での民営化は、ほかの国でもスタートアップが拡大する形で進められているが、韓国の場合「財閥グループの中で宇宙企業に投資していく」という形で進められている。自動車大手のHyundai Motor(現代自動車)や兵器大手のHanwhaなど財閥で宇宙企業への投資が進んでいるという。
「SamsungやLGなどが電子機器分野で大きく躍進した成功体験を宇宙でも進めようとしていることが分かる」
韓国では航空分野にも力を入れていると中村氏は指摘する。無人航空機(Unmanned Aerial Vehicle:UAV)、「空飛ぶタクシー」とも呼ばれるUrban Air Mobility(UAM)の開発に投資が進んでおり、東アジアでのUAVやUAMのサービスインは中国と並んで韓国が一番早いだろうと見ている。
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米国で始まった宇宙活動の民営化に起因する宇宙ビジネスの広がりは、日本を含めたアジア太平洋地域各国でも起きている。学術研究の場として宇宙に乗り出すことはもちろんだが、アジア太平洋地域にある国々の多くが経済の発展や社会課題の解決策として宇宙を捉えている。
国としてコミットするドバイ、戦後から独自に進出して民間の力を活用し始めているインド、イノベーションをもたらす場所として活用に乗り出すインドネシア、インターネットのコネクティビティを改善するために活用するフィリピン、重要産業として育成する方針を明らかにするタイ、コンソーシアムを結成するシンガポール、財閥主導で進める韓国など、それぞれ形はさまざまだが、アジア太平洋地域は宇宙を利用して社会経済発展と社会課題解決することを本気で目指し始めている。