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ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が次に捉える驚異とは

2022.07.29 11:50

CNET Japan

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 米航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)、カナダ宇宙庁(CSA)は米国時間7月12日、共同で運用するジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)から届いた初の画像を公開した(最初の1枚は前日の11日にJoe Biden米大統領が披露している)。JWSTは25年の歳月と100億ドル(約1.38兆円)をかけて開発された宇宙望遠鏡で、現在は地球から約160万kmほど離れた空間を飛行している。一連の写真は、この夢の望遠鏡が実際に稼働していること、しかも「完璧」に稼働していることを証明した。JWSTが撮影した画像は、先代となるハッブル望遠鏡よりも一段とクリアになっている。宇宙の壮大さに、そして私たちの太陽系もその一部であるという事実に思いを馳せずにはいられない、心を揺さぶる画像だ。

JWSTによる写真を見ている3人のシルエット(提供:Getty Images)
JWSTによる写真を見ている3人のシルエット(提供:Getty Images)

 しかし、こうした画像はJWSTが紡ぐ物語の序章にすぎない。この巨大な宇宙望遠鏡の真の成果は、これから始まる章に刻まれることになる。

 JWSTから届いた最初のフルカラー画像は見事なものだったが、それはこの宇宙望遠鏡が持つ観測能力のほんの一部を示しているにすぎない。かつてハッブル宇宙望遠鏡から最初に届いた光の画像1枚が、後にポスターとなって世界中の天文学科の壁を飾ることになる驚異のディープフィールドを、あるいは詩人にインスピレーションを与える星雲を予見させはしなかったように、今の私たちもこれから起きることを説明する言葉を持たないのかもしれない。

ステファンの五つ子(7月12日に公開された、JWSTによる撮影写真、提供:NASA)
ステファンの五つ子(7月12日に公開された、JWSTによる撮影写真、提供:NASA)

 しかし、JWSTが今後捉えるであろう画像を推測することは、ある程度は可能かもしれない。なぜなら、この宇宙望遠鏡がニュースをにぎわせたのは最近のことだが、科学者たちは何年も前から、この望遠鏡を使おうと列をなしているからだ。

 研究者たちがJWSTを使って捉えようとしているのは、驚くべき現象の数々だ。例えば巨大なブラックホール、銀河の衝突合体、ガスを放出しながら発光する連星、そして地球に近い場所では、木星の月とも呼ばれる氷衛星ガニメデ――。

 世界中の科学者から届いた観測提案は、2017年11月にJWST諮問委員会(JSTAC)と宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)によって、最初の幸運な観測対象が選ばれ、6つのカテゴリーに分類された。もちろん、こうした提案の他にも、200以上の国際プロジェクトなどが望遠鏡の利用を認められ、観測の順番を待っている。

 JWSTの初期観測対象に選ばれた研究は、科学者にも望遠鏡にも利益をもたらすものとなっている。これらの研究はJWSTの強力な観測装置を使って、様々なデータセット、ベースライン、手法など、今後の研究に役立つ成果を生み出す。歴史に残る、決定的な瞬間を捉えるために。

JWSTの想像図(提供:NASA GSFC/CIL/Adriana Manrique Gutierrez)
JWSTの想像図(提供:NASA GSFC/CIL/Adriana Manrique Gutierrez)

 JWSTの初期観測プログラム「DD-ERS(Director’s Discretionary Early Release Science)」に関するサイトには、「JWSTの科学的可能性を最大限に引き出すためには、科学コミュニティはその装置と機能にすばやく習熟しなければならない」と書かれている。DD-ERSは、科学コミュニティの習熟スピードを速めるため、(6カ月間の試運転期間に続いて)JWSTが稼働する最初の5カ月間に行われる。

 この初期観測プログラムの下で選ばれた研究リストを見て、私の期待は高まった。それは私だけではないだろう。

 その一部を紹介する。

JWSTの初期観測

 地球から約35億光年離れたところに、「アベル2744」と呼ばれる巨大な銀河団がある。別名を「パンドラ銀河団」という。

 これは非常に古い、地球から遠く離れた場所にある宇宙の一部なので、JWSTを利用した観測の出発点としては最適と言えるかもしれない。JWSTには、人間の目はもちろん、一般的な光学望遠鏡でも見ることのできない、遠い宇宙から発せられる光を捉えられる赤外線カメラがいくつも搭載されている。科学探査には最高の環境だ。

 科学者たちは、このきらめく銀河団の中で何が起きているのかを明らかにするために、人間の目には見えないが、天体物理学の進歩には欠かせない現象を探る予定だ

チャンドラX線望遠鏡のX線画像とハッブル宇宙望遠鏡の可視光画像(赤、緑、青)の合成によるアベル2744の画像(提供:NASA/CXC; Optical: NASA/STScI)
チャンドラX線望遠鏡のX線画像とハッブル宇宙望遠鏡の可視光画像(赤、緑、青)の合成によるアベル2744の画像(提供:NASA/CXC; Optical: NASA/STScI)

 使用が検討されているのは、JWSTの2つの観測機器――近赤外線分光器(NIRSpec)と近赤外線撮像・スリットレス分光器(NIRISS)だ。どちらも地上からは観測できない赤外線域の化学組成を明らかにできる。

 JWSTは遠く離れた場所を見れるだけではない。近くのものに焦点を合わせて、スキャンすることも可能だ。

 この性能を利用して、地球に近い場所で起きている現象を解明しようとしている科学者チームもある。このチームが目指すのは、木星の雲層、風、組成、温度構造、そしてオーロラ活動(いわゆる木星オーロラ)の詳細を明らかにすることだ。

 この研究は、NIRSpec、NIRISS、近赤外線カメラ(NIRCam)、中赤外線カメラ(MIRI)など、JWSTの画期的な赤外線機器をほぼ総動員して行われる予定だ。「このプログラムは、太陽系有数の大きく明るい天体と、その隣にある非常に暗い天体を利用して、JWSTの観測機器の性能を実証するものとなる」と、アブストラクトに記されている

 プロジェクトのステータスレポートによると、木星に関する研究はすでに始まっており、8月に入っても続く予定だ。さらに太陽系で最も大きい木星の衛星ガニメデと、同じく木星の衛星で地質学的に活発なイオも、MIRIを利用して観測される。特にイオについては、火山活動の詳細を明らかにし、JWSTから得られた情報とこれまでの情報の比較が行われることになっており、興味深い。

波長2.12マイクロメートルのフィルターを使用してNIRCamで撮影された木星と衛星エウロパ(提供:NASA, ESA, CSA and B. Holler and J. Stansberry (STScI))
波長2.12マイクロメートルのフィルターを使用してNIRCamで撮影された木星と衛星エウロパ(提供:NASA, ESA, CSA and B. Holler and J. Stansberry (STScI))

 次に、科学者たちが注目しているのはダストだ。といっても、ただのダストではなく、星間塵である。

 宇宙を彩る星や惑星は、主にダストでできていることが分かっているが、どのような経緯で現在の姿に至ったのかは、よく分かっていない。私たちが存在するために欠かせないダストの多くは、初期宇宙にも存在するが、初期宇宙は赤外線でしか見ることができない。

 つまり、JWSTにはこの謎を解明できる可能性があるのだ。

 星間塵を解明することは、宇宙の構成要素を理解することでもある。原子の研究が物質ついて教えてくれるのと同じことだ。かつてCarl Sagan氏が言ったように、「宇宙は私たちの中に存在する。私たちは、星と同じ物質でできている。私たちは、宇宙が自らを知る方法のひとつなのだ」

 JWSTは、宇宙の内省を助けることができるかもしれない。

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