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NASA、「ホロポーテーション」で医師を宇宙船へ派遣–3Dモデルをリアルタイム転送
2022.04.21 10:50
皆さんの語彙に、新しい名詞を追加しよう。「ホロポーテーション」だ。
「ホログラム」と「テレポーテーション」を合成した造語だ。Isaac Asimovの小説や、ドラマ「スタートレック」シリーズに登場するニッチなSF用語のように聞こえるかもしれないが、そうではない。
2021年10月、米航空宇宙局(NASA)は、この驚異的な最先端技術を使って、NASAの宇宙医官Josef Schmid氏を国際宇宙ステーション(ISS)に送り出した。ただし、Schmid氏自身は安全な地上に滞在したままだ。ロケットは必要ない。
次元を越えるこの旅でSchmid氏に同行したのは、ホロポーテーション機器の開発に関わったAEXA Aerospaceで最高経営責任者(CEO)を務めるFernando De La Pena Llaca氏と、その他数名のチームメンバーだ。
「人間という存在が地球を離れて踏み出せる、全く新しい探索の形だ」。Schmid氏は4月初めに出した声明の中でそう述べている。「物理的な身体はそこにないが、人間としての存在は間違いなくそこにある」
信じられないことかもしれないが、ホロポーテーションは全く新しい技術というわけではない。Microsoftが数年前に考案し、その当初の意図は広告、地球での入院治療、教育といった業種を改革することにあった。同社はそのコンセプトを堅実に発展させてきたが、NASAの最近の取り組みは、ホロポーテーションを次のレベルに推し進めた。
こうした仮想的な移動によって、人が地球のはるか上空まで送られたのは、今回が初めてのことだ。
どんなことが起こったのか、説明しよう。
基本的には、ホロポーテーションする人の高画質の3Dモデルを作成し、デジタル圧縮したうえで転送して、宇宙空間の研究所で再構築するという仕組みだった。そのすべてがリアルタイムで実行された。
一方、ISSにある複合現実ディスプレイ、つまりMicrosoftの「HoloLens」によって、ホロポーテーションする人と宇宙飛行士は、まるで同じ物理空間にいるように、互いを見たり聞いたり、やり取りをしたりできた。例えば、宇宙飛行士のThomas Pesquet氏は、Schmid氏およびDe La Pena氏と、実際には遠く離れているにもかかわらず、ISSの中心で双方向の会話を交わしている。
3人は、ホログラフで握手もしてみせた。
「プライベートな医学会議、プライベートな精神医学会議、プライベートな家族会議、さらにはVIPを宇宙ステーションに呼んで宇宙飛行士を訪問させるのに使う予定だ」、とNASAは声明で述べている。
NASAはさらに、拡張現実(AR)の機能を追加してシステムを拡張する意向だ。ホロポーテーションする人は、文字どおりそこにいるかのように、宇宙ステーションの中を歩いたり、物を観察したりできるようになる。もちろん、実際に触るわけではない。
これは、地球を遠く離れた宇宙飛行士の遠隔医療や、ISSの建築プロジェクトに利用できる可能性があるほか、将来的に深宇宙の探索にも大きなメリットになる可能性がある。この最後の点は重要だ。標準的な無線通信だと、宇宙空間のシステムとの通信に最大20分間の遅延が発生するからである。ホロポーテーションなら、ステーション上にとどまってリアルタイムで対話ができる。
「宇宙ステーションが、地上250マイル(約400km)の軌道上を時速1万7500マイル(約2万8000km)で常時移動していても問題ない。宇宙飛行士は3分後に戻ることも、3週間後に戻ることもでき、システムが動いていれば、すぐその場に行って、宇宙ステーションで過ごすことができる」(Schmid氏)
さらに、NASAは、この技術を地球上でも直接応用できるとしている。例えば、極めて厳しい環境で作業する研究者や軍事作戦の専門家などだ。
Schmid氏は以下のように語っている。「どこで取り組んでいようと、優秀な指導者や、特に複雑なテクノロジーの実際の設計者をすぐそばに連れていけるところを想像してみるといい。優秀な外科医2人が協力して手術を行うように、同じデバイスに一緒に取り組むことができる。最高のチームが、重要なハードウェアに対して一緒に取り組んでいることが分かるので、これなら誰もが安心できる」
(この記事はCNET Japanからの転載です)