ニュース

米アクシオム・スペース、「データセンター衛星」2機を2025年内に打ち上げへ

2025.04.15 18:06

塚本直樹田中好伸(編集部)

facebook X(旧Twitter) line

 米Axiom Space(アクシオム・スペース)は米国時間4月7日、2025年末までに2機の「軌道上データセンター(Orbital Data Center:ODC)」衛星を地球低軌道(LEO)に打ち上げる計画を発表した。

 2機のノード「ODC 1」「ODC 2」は地球観測衛星からデータを受け取り、AI(人工知能)や機械学習アルゴリズムを使って軌道上で直接データを処理する。これにより、地上のユーザーに対するインサイトの提供スピードが大幅に向上する見込みだ。

 現在の衛星システムでは、画像などのデータを一度地球に送信し処理するため、タイムラグが存在する。Axiom Spaceのノードのように宇宙でデータを処理することで、必要な情報だけを地上に送信することが可能になり、帯域幅の効率的な利用やセキュリティリスクの低減にもつながると考えられている。

 海外メディアのSpace.comによると、一部の技術者は、電力を大量に消費するコンピューティングインフラは、将来的には太陽エネルギーが安定し冷却も容易な宇宙の方が適していると考えているという。地球上のデータセンターの需要増加は、不動産市場と電力網に圧力をかけ、地域社会にも影響を及ぼしていると解説する。

 この2機のノードは、カナダのKepler Communications(ケプラー・コミュニケーションズ)が2025年後半からLEOでの展開を予定している、光中継衛星コンステレーション「Kepler Network」の一部となる。他の衛星とは2.5Gbpsのレーザー通信リンクで接続され、地上のデータセンターとも高速で通信できる。

 Kepler Networkでのレーザー通信リンクは、米宇宙開発庁(Space Development Agency:SDA)が主導して進めている衛星間光通信仕様「Optical Inter-Satellite Link(OISL)」に準拠している。Kepler Networkは太陽同期軌道(SSO)を周回する9機と1機の予備、計10機で構成される。第1弾は2025年第4四半期(10~12月)の打ち上げを計画している。

 Axiom SpaceはODC事業の拡大に対応するため、Kepler Networkを追加購入するオプションを保持している。Axiom SpaceとKepler Communicationsは、ODCや光通信ネットワークを国家安全保障などを含む、民間企業も含めたさまざまな組織に販売したいと考えている。

 Axiom Spaceは過去にも、Amazon Web Services(AWS)の小型エッジコンピューター「Snowcone」を国際宇宙ステーション(ISS)でテストしており、2025年中には今回のODCよりも大型のデータセンターユニット「AxDCU-1」を打ち上げる予定だ。ODCの前段階としてハードウェアとソフトウェアの動作を検証する。

 Axiom Spaceで宇宙データセキュリティを担当するグローバル・ディレクターのJason Aspiotis氏はODCについて「リアルタイム、サイバーセキュリティ、量子暗号、機械学習を含めたAI(AI/ML)、自律的な意思決定が決定的に必要とされる防衛アプリケーション」に向いていると説明する。

 同社の創業者であり、取締役会長であり、最高経営責任者(CEO)であるKam Ghaffarian氏は、今回のODCについて「機能実証だけでなく、初期の宇宙ベースのクラウドサービスを展開するための契約を締結している」と解説している。

 「国家安全保障上のニーズ、特に(イスラエルのミサイル防衛システム『Iron Dome』の米国版と言われる)『Golden Dome』構想を注視している。進化するODCインフラが、宇宙ベースのデータストレージ、サイバーセキュリティ、AI/MLで米国や同盟国の能力をどのようにサポートできるかについても注視している」(Ghaffarian氏)

Kepler Networkイメージ(出典:Kepler Communications)

 衛星が捉えたすべてのデータを地上局が受信してデータ処理するのは時間がかかる。そこで(今回のODCのように)衛星上にデータ処理する機能を衛星に貨物(ペイロード)として載せてしまおうという考えは、地球上での、例えばIoTセンサーに捕捉されたデータをすべてクラウドで処理するのではなく、IoTセンサーに近いところにある「エッジコンピューター」でデータを処理するという考えと同様だ。つまり、衛星にエッジコンピューターを載せる(あるいは衛星そのものをエッジコンピューターにする)というものである。

 衛星に載せたオンボードコンピューターで高分解の衛星画像を処理するという研究を宇宙航空研究開発機構(JAXA)とQPS研究所はすでに進めている。 日本電信電話(NTT)とスカパーJSATの合弁会社であるSpace Compassは米Microsoftで共同で衛星のエッジコンピューターで地上にダウンロードする画像の容量を98%削減させることを実証している

関連情報
Axiom Spaceプレスリリース
Kepler Communicationsプレスリリース
Space.com

Related Articles