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「だいち4号」搭載の光通信機器、動作確認完了–宇宙で通信速度1.8Gbps実現へ
2024.08.21 08:30
7月1日に打ち上げられた先進レーダー衛星「だいち4号」(ALOS-4)に搭載された光ターミナル(OLLCT)の単体レベルでの動作確認が完了した。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の第一宇宙技術部門が8月20日に発表した。
OLLCT(Optical Leo Laser Communication Terminal)の2軸ジンバル(Coarse Pointing Mirror:CPM)の動作確認は7月22日に完了。衛星間での光通信に不可欠なレーザー光の強さや安定性、レーザーの送信方向を制御する性能などを順次確認し、OLLCT全体が正常に動作し、衛星間光通信に必要な性能を満たしていることが確認された。
今後は、静止軌道を周回する光データ中継衛星(データ中継衛星1号機:JDRS-1)に搭載されている光ターミナル(Optical Geo Laser Communication Terminal:OGLCT)と実際に“捕捉、追尾”するとともに通信し、性能を評価する対向チェックアウトを実施していく。
- 光学部(OPT):レーザー光を送り出す/受け取る部分。レーザー光の送受信方向を制御する他、受信したレーザー光をファイバーに取り込む。OAMPからファイバーで受け取ったレーザー光を一定の大きさに広げる
- 光増幅部(OAMP):レーザー光の強度を増幅する部分。OPTで受け取った通信相手からの弱い光を増幅させたり、OTRXから受け取った送信光を増幅させたりする
- 光送受信部(OTRX):光信号と電気信号を変換する部分。ALOS-4システムから受け取る送信データ(電気信号)を光信号に変換するとともに、地上からの受信データ(光信号)を電気信号に変換する
- 制御回路部(CNT):OPT、OAMP、OTRXの動作を制御する。衛星外部に取り付けられたOPTの温度を制御する機能も担う
JAXAが開発する「衛星間光通信システム」(Laser Utilizing Communication System:LUCAS)は、低軌道を周回する地球観測衛星と静止軌道を周回する光データ中継衛星の間を波長1.5μmという、目に見えないレーザーを使った光通信で実現するシステム。
LUCASは、観測衛星が撮影した画像などの観測データを静止軌道を周回する衛星が中継して、地上局に送信するというのが基本的な仕組み。
低軌道を周回する衛星が地上局1局と直接通信すると、地球1周(時間にして約90分)のうち10分程度しか通信時間を確保できない。静止軌道を周回する衛星が中継すれば、約4倍の通信時間を確保することができる。つまり、低軌道を周回している時間の半分、約40分通信時間を確保することになる。
近年、観測衛星に搭載されるセンサー類は高精細化され、データ量が大きくなっている。LUCASで通信できる範囲が4倍以上に拡大されることで、こうしたデータ転送量の増大にも対応できるようになる。加えて、観測されたデータの即時性も向上されることからLUCASは注目されている。
JAXAは、過去に「データ中継衛星(Data Relay Test Satellite:DRTS)」(愛称「こだま」)を開発し、「だいち2号」(ALOS-2)などの観測衛星が取得したデータを中継、電送していた。こだまは電波でデータをやり取りしていた。通信速度は240Mbps、通信に活用されたアンテナは口径が3.6mだった。
対するLUCASの通信速度は1.8Gbpsと、こだまの7倍以上。活用されるアンテナの口径は14cmと、こだまの約25分の1の大きさとなっている。
こだまの後でJAXAは「光衛星間通信実験衛星(Optical Inter-orbit Communications Engineering Test Satellite:OICETS)」(愛称「きらり」)を2005年に打ち上げ、衛星間光通信の実証実験に成功している。
LUCASとOLLCTの設計と製造はNECが担当。チェックアウト運用もNECが支援している。NECは、通信速度が100Gbps以上という衛星間光通信の装置を米Skyloom Globalと共同で開発している。
衛星間光通信については、米Space Exploration Technologies(SpaceX)が端末を開発、衛星ブロードバンドサービス「Starlink」の衛星間ですでに使用しており、通信速度は100Gbpsと言われている。
だいち4号は、衛星と地上局の間のデータ転送で通信速度3.6Gbpsを記録した。地球観測衛星での通信速度として世界最高性能という。