ispace米法人、小型衛星基盤部分の設計や製造で米企業と契約--月と地球の通信を中継

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ispace米法人、小型衛星基盤部分の設計や製造で米企業と契約–月と地球の通信を中継

2024.04.11 08:30

UchuBizスタッフ

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 米ispace technologies U.S.(ispace US)と米Blue Canyon Technologiesは、ispace USが2026年に予定している月着陸ミッションに活用する2機の小型衛星の基盤となる衛星バスの設計と製造で契約を締結した。2機の衛星は月を周回する軌道で通信を中継する。ispace USの親会社であるispace(東京都中央区)が4月10日に発表した。

 Blue CanyonはRTX(旧Raytheon Technologies)の子会社、小型人工衛星の製造やミッション運用も手掛ける。同社が製造するミニサテライトのバスは「マーキュリー」「ビーナス」「サターン」の3種類で構成。搭載できる貨物(ペイロード)の重さと大きさが異なる。

 マーキュリー級に搭載できる重さは40kg、大きさは36cm×43cm×43cm、ビーナス級に搭載できる重さは70kg、大きさは太陽電池パネルが1枚で52cm×42cm×69cm、太陽電池パネルが2枚だと43cm×42cm×69cm、サターン級に搭載できる重さは200kg(350kgまで拡張可能)、大きさは76cm×76cm×102cmとなっている。

 ispace USのためにBlue Canyonが開発する衛星のバスはビーナス級。2機の通信中継衛星は、ispace USが開発する着陸船(ランダー)に搭載され、月の裏側で南極付近にあるSchrödinger Basin(シュレーディンガー盆地)に着陸する前に月の周回軌道上に展開される計画。

 通信機器を搭載した2機の小型衛星は、月の周回軌道上で月の裏側の着陸地点と地球を結ぶ通信を中継して、月面に着陸したランダーとペイロードからの高速データを地球で受信する。この通信システムは、将来的に月を対象にした他のミッションでも商用利用が可能という。ispace USは、この通信システムをミッション開始後、数年にわたって後続するミッションや顧客企業向けサービスに活用する計画としている。

(左から)ispace US 事業開発ディレクター Robert Cone氏、ispace US エンジニアリング担当エグゼクティブバイスプレジデント Ryan Whitley氏、ispace US 最高経営責任者(CEO) Ron Garan氏、Blue Canyon ゼネラルマネージャー Chris Winslett氏、Blue Canyon ミッション3プログラムマネージャー Kyle Wedmark氏(出典:ispace)
(左から)ispace US 事業開発ディレクター Robert Cone氏、ispace US エンジニアリング担当エグゼクティブバイスプレジデント Ryan Whitley氏、ispace US 最高経営責任者(CEO) Ron Garan氏、Blue Canyon ゼネラルマネージャー Chris Winslett氏、Blue Canyon ミッション3プログラムマネージャー Kyle Wedmark氏(出典:ispace)

 ispace USは米Charles Stark Draper Laboratory(Draper、米マサチューセッツ州)を筆頭にした企業グループ「Team Draper」に参加。米航空宇宙局(NASA)は、民間企業に月までのペイロード輸送を委託する「商業月面輸送サービス(Commercial Lunar Payload Services:CLPS)」をTeam Draperと契約している。

 日本のispaceは月探査プログラム「HAKUTO-R」のミッション1でランダーを開発し、月着陸を目指した。ミッション1のランダーは残念ながら着陸寸前で失敗したが、多くの行程で成功させている。

 HAKUTO-Rのミッション2の打ち上げは2024年10~12月に予定されているが、その後のミッション3はTeam Draperの一員として、ispaceがランダーの設計やミッション全体の運用などを担当するとみられる(ミッション2はispace単独で設計、開発、運用される)。

 ispace USを含めたispaceがランダーの設計やミッション全体の運用などで参加する、Team Draperによる月着陸ミッション「APEX 1.0」は、3つの科学機器を含むペイロードを月の周回軌道と月の裏側に輸送する。APEX 1.0の打ち上げは2026年を予定している。

 ispace USと米Rhea Space Activity(RSA)でペイロード輸送サービス契約を締結している。今回、ispace USとBlue Canyonが契約した、2機の衛星に、RSAが開発する自律航法誘導制御機器「Jervis Autonomy Module(JAM)」が搭載される(JAMを開発するためにRSAはNASAから75万ドル=約1億1000万円の補助金を獲得している)。

 RSAが開発するJAMは、地球の地上局や人工衛星との通信ではなく、天体の画像から宇宙での軌道を決定することで、宇宙機を自律的に誘導制御できるという。月や惑星、彗星、小惑星、その他の天体の写真を12時間ごとに数枚撮影することで宇宙での宇宙機自身の位置を把握し、正確に自律航行できる技術と説明する。

 JAMは、APEX 1.0のランダーが予定している、月の裏側の着陸地点と地球との通信確立を狙う2機の通信衛星を円滑に運用されるために活用される。

 APEX 1.0のランダーは現在、ispaceが提供できる商業ミッション向けランダーの中で最も高性能と説明。HAKUTO-Rミッション1で活用されたシリーズ1ランダーからデータやノウハウを活用して、性能を強化したと解説する。

 APEX 1.0に活用されるランダーは、シリーズ1ランダーの10倍以上となる、最大300kgのペイロードを月に輸送できると強調。将来的には、顧客企業からの拡大する要求に応えるために、APEXシリーズに搭載できるペイロードの容量を段階的に増加させ、最大500kgのペイロードを搭載できる設計を目指している。

 APEXシリーズでは、地球と月の間のシスルナ空間、月の裏側から地球への通信をサポートする上で最適とする通信中継衛星を搭載する専用のペイロードエリアを完備できると説明する。月を周回する衛星や月面で活用する装置類、月面を走る走行車などさまざまなペイロードを月の裏側や表側、極域や赤道付近などに輸送可能な設計となっていると解説。高度な構造耐久性、信頼性、製造性で一貫した品質と性能の実現が可能であるとメリットを強調している。

関連情報
ispaceプレスリリース
Blue Canyonミニサテライトバス

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