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JAXAなど、ISSで固体燃焼実験–月面などの重力環境に対応の燃焼性評価手法を確立へ

2022.07.26 18:16

飯塚直

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 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は7月26日、北海道大学と新たに開発された固体燃焼実験装置(Solid Combustion Experiment Module:SCEM)による燃焼実験(FLAREテーマ)を国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」で5月19日から開始したと発表した。JAXAでは6月23日に実施したISSで初となる高濃度酸素条件での材料燃焼実験の結果も公開している。

固体燃焼実験装置(SCEM、出典:JAXA)
固体燃焼実験装置(SCEM、出典:JAXA)

 FLAREテーマとは、「アルテミス計画」を含む、月面などへの国際宇宙探査に向け、2012年にきぼう利用テーマ重点課題区分として採択された「火災安全性向上に向けた固体材料の燃焼現象に対する重力影響の評価」。

 代表研究者は、北海道大学 大学院 工学研究院機械・宇宙航空工学部門教授の藤田修氏。JAXAのほか米航空宇宙局(NASA)、欧州宇宙機関(ESA)、フランス国立宇宙研究センター(Centre national d’études spatiales:CNES)、ドイツ航空宇宙センター(Deutsches Zentrum für Luft- und Raumfahrt:DLR)を含む4カ国14機関が参画している。

多目的実験ラック(Multi-purpose Small Payload Rack:MSPR)とSCEMの構成品(出典:JAXA)
多目的実験ラック(Multi-purpose Small Payload Rack:MSPR)とSCEMの構成品(出典:JAXA)
SCEM外観図(出典:JAXA)
SCEM外観図(出典:JAXA)

 これまで、宇宙船内などで使用する材料は、NASAの材料燃焼性試験基準(NASA-STD-6001)に合格した難燃性を持つ材料を使用することが原則とされてきた。

 しかし、NASA基準では重力に依存して生じる火炎周囲の対流が材料の燃焼性に与える影響を考慮していないため、重力が6分の1という月の環境や軌道上の微小重力環境にも対応する、重力による影響を適切に考慮した材料の燃焼性評価手法は確立されていない。

燃焼容器外観と概要(出典:JAXA)
燃焼容器外観と概要(出典:JAXA)

 アルテミス計画では、月面居住施設などの与圧環境としてISS(大気圧、酸素濃度21%)とは異なる低圧・高濃度酸素条件(0.56気圧、酸素濃度34%)が検討されているが、ISSでこれまで用いられてきたNASAの実験装置では、大気圧、酸素濃度21%以下での材料燃焼実験しか実施できていない。

軌道上での「ろ紙試料」の燃え広がり実験で撮影された画像(雰囲気酸素濃度は34%)と燃焼容器(出典:JAXA)
軌道上での「ろ紙試料」の燃え広がり実験で撮影された画像(雰囲気酸素濃度は34%)と燃焼容器(出典:JAXA)

 そこでFLAREテーマでは、微小重力環境での材料の燃焼性評価手法で活用する地上での燃焼試験方法を国際標準化。今後、その新手法の妥当性をさまざまな材質の材料できぼうで検証していくという。

燃焼容器内部に形成される循環流の模式図(出典:JAXA)
燃焼容器内部に形成される循環流の模式図(出典:JAXA)
対向流条件と並行流条件での火炎燃え広がりの模式図(出典:JAXA)
対向流条件と並行流条件での火炎燃え広がりの模式図(出典:JAXA)

 新たに開発され、きぼうで稼働したSCEMは、低圧条件や45%までの高濃度酸素条件で燃焼実験が可能。アルテミス計画に対応した雰囲気条件で材料の燃焼特性データを取得できることから、新手法の活用に向けた検証が大きく前進すると期待されているという。

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