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宇宙ビッグデータで世界に進出–JAXAが出資した「天地人」のユニークさを探る
2023.02.08 08:00
天地人が評価された具体的な実績について、佐藤氏は農業ITベンチャーらと進める「宇宙ビッグデータ米」、愛知県豊田市と進める「水道管の漏水リスク評価」を挙げる。
宇宙ビッグデータ米は衛星データを活用して全国から栽培最適地を選び、協業企業が開発した自動の水管理システムも活用し水温を管理した。米の美味しさを表す指数で、トップブランドと遜色ないスコアを獲得(市販された新米を筆者も食べてみたが、確かに美味しい!)。2021年は富山県、2022年は山形県鶴岡市と品種や気候の変化に合わせて最適な場所を選べるのも特徴だ。
「衛星データと地上の様々なデータを実際の事業に活用し、宇宙技術がビジネスになる例をみせてくれた。例えば、水道管の漏水リスク評価では、これまで人が歩いて路面などに伝わる音を聞くことで調査していた漏水について宇宙や地上のデータを活用して場所を絞り込み、高い精度をあげている」(佐藤氏)
天地人は2019年に創業したJAXAベンチャー認定企業だ。この3年で農業やインフラ管理にとどまらず幅広い分野で成果をあげている。天地人創業者で最高執行責任者(COO)、現役のJAXAエンジニアでもある百束泰俊氏にJAXAの出資を受ける意義や今後の事業展開について聞いた。
海外でJAXAからの出資は技術への信用になる
「JAXAの出資を受ける一番のメリットは『信用』でしょうか。衛星データ活用は様々な可能性が議論されている一方で、ユーザーから見たときに実現できる、信頼できるサービスを判断しづらい状況になっている印象もあります。特に、外国で活動をするときに、日本の国の宇宙機関であるJAXAから直接出資を受けたことで、天地人の技術への信用はすごく大きくなる」
百束氏がそう語るのは、現在、天地人が世界のマーケットで積極的に事業展開をしようとしているからだ。
2019年に創業した頃は「まだ技術者視点が中心で衛星データを使って何かしたいと考えていた」(百束氏)。使用する衛星データの種類も、それほど多くなかった。その後、海外に目を向けると様々な衛星データを提供してくれる企業が多数あり、マーケットが海外にあることが見えてきた。
そこで欧州委員会(EC)などが主催するビジネスコンテストに積極的に参加、国連を通じて途上国のスマート農業を手伝う仕事などができるようになる。現在はドイツやフランスで農作物の最適地を探すなど農業関連の仕事を展開している。
その過程で「コンサルのような仕事をそれなりにこなしていく中で、自分たちが作るユニークかつ規模を拡大できるサービスは何だろうと考える段階に至った」と百束氏。導いた結論が、天地人独自の土地評価エンジンである天地人コンパスをサービスの軸にすることだ。
具体的には、地理空間情報に様々なデータを掛け合わせた天地人コンパスで、顧客が必要な答えを直感的に見つけられるようにする。
「例えば、お米を作るならどこがいい、肥料をまくなら何月がいいという『答』をお客さん自身が天地人コンパスを見ながら見つけられるように」
そのために顧客と対話を重ね、アルゴリズムや機械学習のモデルを徹底的に作り上げる。衛星データはもちろん、気象データや農作物に関するデータ、人に宿るノウハウなど様々な情報を掛け合わせる。
「お客さんに日常業務にどうやって根付かせてもらうかがポイント。日々更新される衛星データなどの情報をお客さんが毎朝みて農作物の管理に使ったり、ミーティングの際の意思決定に使ってもらったりなどサブスクリプション的に天地人コンパスを業務ツールとしていかに活用してもらうかがポイントです」
ライバル企業も含めて世界で衛星データを含むビッグデータを業務ツールに活用する段階まで実現させた企業はまだ表れていない。「だからこそ、ものすごいチャンスがある」(百束氏)
天地人の強みは膨大なビッグデータから顧客のニーズにあわせてデータを組み合わせ、独自のアルゴリズムで分析、わかりやすい形で可視化し提供できること。社内に衛星画像を扱うエンジニア、データサイエンスや機械学習を扱うエンジニア、システムの構築をするITエンジニアの3種類のエンジニアがいて、3者が融合し独自のサービスを開発する。
2022年2月から現在進行形で進めている愛知県豊田市の水道管漏水リスク評価では、天地人コンパスを業務ツールとして活用してもらうことも目指している。1年間を通した調査で豊田市全域の3663㎞の水道管のどこに漏水リスクがあるか、100m以内の範囲で人工知能(AI)が絞り込む。