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宇宙ビッグデータで世界に進出–JAXAが出資した「天地人」のユニークさを探る
2023.02.08 08:00
日本政府は2022年を「スタートアップ創出元年」と位置づけ、スタートアップへの投資を今後5年間で10兆円規模まで拡大することなどを盛り込んだ計画をまとめた。宇宙関連スタートアップもここ数年で急増している。
だが、スタートアップを創業することはできても成長し続けることは難しく、成功するのは“1000に3つ”ほどであることから「千三つ」とも言われる。特に宇宙開発分野は技術開発に時間がかかり、ロケット打ち上げの延期や失敗があるなどの理由で黒字化までの時間が長く、生き残りは困難を極める。
そんな状況の中、宇宙航空研究開発機構(JAXA)はスタートアップの挑戦と成長加速を支援しようと、2022年12月に初の出資を行った。JAXA初の出資を受けたのは天地人。地球観測衛星などの宇宙ビッグデータを活用し、土地評価サービス「天地人コンパス」をコアとした事業を展開するスタートアップ。2019年に設立されたJAXAベンチャー認定企業でもある。
JAXAがなぜ今、出資するのか
JAXAが出資する狙いについて、JAXA 新事業促進部 事業支援課 課長 佐藤勝氏はこう語る。
「JAXAの研究開発の成果を社会に実装していくこと。つまりは皆さんに使ってもらえるようにしたい。ロケットや人工衛星だけでなく、様々な業界の企業の参入を促進して、宇宙を広がりのある産業にしていくのが、我々新事業促進部の目的でもある。これまで人材や技術は企業に提供してきましたが、今回出資できるようになりました」
「JAXAが出資することで、高い技術をもつという信用を得たスタートアップの活動が加速すること、さらにスタートアップが活動する宇宙業界全体への大きな資金投入を後押しする。そうした『呼び水』の効果に一番大きく期待しています」
なぜ、このタイミングで出資を決めたかと言えば、法律(「科学技術・イノベーション創出の活性化に関する法律」)が2021年4月に改正され、JAXAが出資できるようになったから。先行する大学では直接出資だけでなくファンドへの出資や研究成果を企業へ技術移転する法人(TLO)を作っている。JAXAも今回のスタートアップへの直接投資だけでなく、ファンドへの間接出資やTLOによる技術移転が今後可能になる。
気になるのはその規模。「JAXAの自己収入の範囲です。具体的には特許やソフトウェアのライセンス、JAXA LABELの収益などあくまで自分たちで稼いだ収入です。なので、たくさんはできませんが…(笑)」と佐藤氏。およそ数千万円規模とみられる。
出資額としては大きくないものの、JAXAが出資すること自体に意味がある。
「出資するということは家族のような形になるわけです。JAXAの目から見て『こういう技術が必要ですね』とアドバイスしたり、場合によっては人を派遣したりもできることも、出資を受けるスタートアップのメリットではないかと思います」
出資を受けるにはどんな条件が必要か。
JAXAの成果や知的財産を活用するスタートアップであること。具体的にはJAXAベンチャー認定企業やJAXAと共同研究や共創活動(J-SPARCなど)を行った成果を事業に活用している企業。さらに、すでに大きな資金を調達していないシード・アーリー段階のスタートアップであること。
「つまりは、今後更に大きな成長が期待できる段階の企業であることです」(佐藤氏)
JAXA佐藤氏によれば、宇宙産業の規模はまだまだ小さい。より拡大して基幹産業の一つになれるよう、様々なプレイヤーを増やしつつ、それぞれの企業の事業が成長するために、これからもJAXAは直接出資だけでなく、ファンドへの間接出資など様々な手段を通して支えていく計画だ。
宇宙技術が様々な分野でビジネスになる例を示す
今回出資した天地人のどんな点が評価されたのだろう。
「地球観測データを使ってJAXAが目指す新しい宇宙利用ビジネスや、成果の社会実装につながる事業を展開しようとしている点。また、世界で活発化する衛星データ利用の分野において、国内外で精力的に事業展開を進めており、今後の成長が期待できる点など総合的に判断しました。天地人の事業は、内閣府の『宇宙開発利用大賞』で農林水産大臣賞を受賞、欧州宇宙機関(ESA)のコンテストで優勝するなど、第三者から見ても高い期待を持って評価を得ていると思います」