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auが2024年に始める「スマホと衛星の直接通信」–別料金にすべきではない理由(石川温)

2023.08.30 17:30

石川温

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 8月30日、auとSpace Exploration Technologies(SpaceX)が共同会見をやるというので取材してきた。

 先日、会員制の大型スーパーである「コストコ」Starlinkのアンテナを販売するというニュースがあり「auショップでもStarlinkのアンテナを置くのかしら」と思っていた。

 また、この日の未明、アップルから9月12日にスペシャルイベントをやるという招待状を受け取ったタイミングだったので「auは、iPhone商戦に向けて衛星ブロードバンドサービス『スターリンク』とバンドルして通信料金を割り引く『スターリンク割』でもやるのかな」と期待していたら、なんと、SpaceXと新たに業務提携を行い、最新鋭の衛星とauのスマートフォンが直接、つながり、メッセージ送信や音声通話、データ通信を行えるようになるという発表だった。

 サービス開始は2024年内を予定。「衛星通信専用スマホ」を新たに購入する必要も無ければ、スマホに外付けの衛星アンテナを接続することも不要だ。

 既存のすでに所有しているスマホと衛星が直接、通信できるようになるという。

 SpaceXはすでに米国のキャリアであるT-Mobileと同様の発表をしている。2024年中にサービスを開始するとしており、KDDIもこの計画に乗ったかたちとなる。このサービスは米国、日本だけでなく、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、スイスでも提供予定となっており、日本のユーザーは海外でも利用可能となる見込みだ。

 日本では、楽天モバイルが、米国のASTと組んで「スペースモバイル計画」を進めつつある。2024年以降のサービス開始を予定しており、2023年9月以降には北海道において、実証実験を行うとしている。

 SpaceXはすでに4000以上の衛星を打ち上げ、ブロードバンドサービス「Starlink」を提供しているが、スマホとの直接通信を実現するには新たな衛星を打ち上げていく必要がある。その点、ASTも実証実験中ということもあり、もしかするとスタート時期は2024年ということで、両社、かなり近いタイミングでサービス開始になるかも知れない。

 ただ、SpaceXは衛星に関して圧倒的な技術力とノウハウを誇っており、ASTの衛星である「BlueWalker3」もSpaceXのロケットによって打ち上げてもらっている状態だ。

 KDDIも衛星通信において技術と歴史があるだけに、KDDIとSpaceXとのタッグのほうが期待値は自ずと高くなってくる。

衛星通信は追加料金なしで使えるようにすべき

 すでに持っているスマホでも衛星通信が使えるようになるということで、誰もが衛星通信のメリットを享受できる可能性がある。

 すでにauネットワークは人口カバー率で99.9%となっているが、離島や山間部、海上など、日本にはまだまだスマホが使えないところが残っている。

 KDDIとしては「空が見えれば、どこでもつながる」としており、日本中、あらゆる場所でスマホが使えるようにするつもりのようだ。

 ここで気になるのが「料金設計」だ。

 サービス開始前ということで、具体的な金額や仕組みについて言及はなかったが、KDDI・パーソナル事業本部副事業本部長兼事業創造本部長の松田浩路氏は「auやUQモバイル、povoで利用できるようにする」という。

 メインブランドのauだけかと思いきや、サブブランドのUQモバイル、さらにデータ容量をトッピングで追加していくpovoでも使えるようになるというのは朗報だろう。

 ただ、すべてのブランドで、2024年以降、新たに「衛星通信対応料金プラン」が出てくるとなると、既存の料金プランに加えて、かなり数が増えてしまうので、ちょっと煩雑でわかりにくくなりそうな気がする。

 確かにキャリアとしては値上げしたいタイミングであり、衛星通信はまさに値上げには格好な材料だ。ただ、値上げを許容できないユーザーからすれば、なかなか衛星通信対応プランに切り替えたいとは思えないのではないか。

 キャリアとしては衛星通信対応を月額数百円の「有償オプション」として提供するのが妥当な線と言えるだろう。確かにこれまで圏外だった場所でも月額数百円支払えば、メッセージ送受信や音声通話、データ通信が使えるようになるというのであれば、数百円の出費は痛くないかも知れない。

 ただ、仮に山で道に迷い遭難しそうになった時、「スマホで助けを呼びたい」と思い、電波を見れば、圏外ではなく、見事に衛星とつながっている。いざ、電話をかけようとしたら「お客様は衛星通信プランではありません」とか「お客様は衛星通信オプションに加入していません」という音声アナウンスが流れてきたなら、やるせない気持ちになってしまうではないか。

 一刻を争う状況にも関わらず、なぜか「My au」アプリの通信だけはつながり、その場でオプションに加入してから助けを呼ぶなんて、まどろっこ過ぎやしないか。

 値上げプランへの切り替えや、数百円のオプション料金をケチったために、山や海で、危険な目に遭ってしまうなんてことがあってはならないような気がしてならない。

 KDDIには無理なお願いかも知れないが、是非とも、au、UQモバイル、povoのユーザーが追加の負担なく、誰もが気軽に衛星通信を使えるようにしてもらいたい。

 KDDIにはオプションで稼ぐなんてことはせず、「auやUQモバイル、povoを使っていれば、いざという時に衛星通信が使える安心感」を求めるユーザーが他キャリアから殺到するのをじっと待って欲しいものだ。

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