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スマホと衛星の直接通信、急速に盛り上がった理由–楽天「スペースモバイル計画」現況は(石川温レポート)

2023.04.21 08:49

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 なぜ、ここに来て、衛星とスマートフォンの直接通信が盛り上がりを見せているのか。

 Appleは2022年12月に米国で緊急SOSメッセージに対応し、さらにサービス提供国を増やしつつある。Android勢はチップやモデムを手がけるQualcommが「Snapdragon Satellite」を発表。中国のXiaomiやOPPOなどが衛星通信機能に対応したスマートフォンを開発している。Googleも5月に行われる開発者向け会議で衛星通信対応のAndroidを発表するのではないか、と見られている。

▲iPhoneの衛星通信のデモをハワイで実際に試した様子
▲iPhoneの衛星通信のデモをハワイで実際に試した様子

 スマートフォンと衛星の直接通信が盛り上がりを見せている理由について、NTTドコモで6Gなどに詳しい中村武宏チーフテクノロジーアーキテクトは「一つの理由としては、衛星の打ち上げコストが飛躍的に下がったというのが大きい。1つの大きな衛星の打ち上げる次いでに、小さい衛星も一緒に積み込んで送ってあげるというビジネスモデルが出来上がったことが大きいのではないか」という。

 特にElon Musk(イーロン・マスク)氏が手がけるSpace Exploration Technologies(SpaceX)により、様々な衛星が同社によるロケットによって宇宙に運搬されるようになった。

 実際にSpaceXに衛星を運んでもらったという衛星ビジネス関係者によれば「SpaceXに衛星を運んでもらい、宇宙に放出してもらうのは数千万円あればやってもらえる」という。

 最近ではソニーの超小型人工衛星「EYE」や楽天モバイルの「スペースモバイル計画」を担う米国のAST SpaceMobile(AST)の衛星も、SpaceXによって運ばれている。

 まさにイーロン・マスクは衛星ビジネスに民主化をもたらしたといえるだろう。

三木谷社長「ASTの創業資金はウチが負担した」

 「あれは、最初にお金を出したのウチですからね。ここはちゃんと書いておいてください。創業資金は楽天がほぼ出していますから」

  楽天モバイルが2024年末の導入を目指している「スペースモバイル計画」はASTの衛星を利用する。そのASTについて、楽天グループで代表取締役会長兼社長を務める三木谷浩史氏は「創業資金はウチが負担した」と胸を張る。

楽天グループで代表取締役会長兼社長を務める三木谷浩史氏
▲楽天グループで代表取締役会長兼社長を務める三木谷浩史氏

 ASTが創業されたときは、楽天モバイルとVodafoneしか契約していなかったが、ここに来て、AT&Tとテレフォニカが仲間に加わるなど世界のキャリアがパートナー契約を結び始めている。

 まだまだ、技術的に一般には公開されていないところもあり、半信半疑なところも多い。特に「スターリンクは3000機以上の衛星を飛ばして世界中で事業を展開しているが、ASTは実際に衛星をいくつ飛ばすつもりなのか」というのが謎であった。

▲地球低軌道(LEO)に巨大なアンテナを浮かべてスマートフォンとの直接通信をめざすASTの構想

 しかし、2月下旬にスペイン・バルセロナで開催された通信業界の見本市「MWC 2023」において、ASTの担当者を発見。直接質問したところ「サービス開始時は100機だ」との回答を得た。

 もちろん、衛星を飛ばすのはSpaceXに依頼するのだろう。今後、100機近い衛星を飛ばすとなると、1機で数千万円なので、数十億円規模の資金が必要になりそうだ。

 このあたりの追加資金を楽天がどれくらい負担するのか。それともパートナーであるボーダフォーンやAT&T、テレフォニカとどのように分担するのかが注目と言えそうだ。

業界団体のGSMAもASTを注視

 iPhoneは衛星と通信する際、地上では使われていない衛星専用の周波数帯を使っている。Androidも同様のようだ。

 しかし、三木谷浩史会長は「うち(スペースモバイル計画)のは、端末はすべて使える。AndroidやiPhoneだろうが特別なチップはいりません」と語る。iPhoneの場合、緊急SOSメッセージだけといったように用途を限定しているが、三木谷浩史会長は「全部使える」ということで、SNSや動画など、スマートフォンで使えるアプリをすべて使えるようになるという。

 技術面が少しずつ明らかになるスペースモバイル計画であるが、一方で、制度面において、疑問視する声もあがっている。

 KDDIの髙橋誠社長は「ASTのビジネスモデルがGSMA(世界の携帯電話会社を中心とした業界団体)で議論の的になっている」と語る。実は高橋社長は日本で唯一のGSMAボードメンバーだ。

▲KDDIで代表取締役社長を務める髙橋誠氏

 主にヨーロッパなどでは、携帯電話会社は高額なオークションで周波数を落札してビジネスを展開している。ASTが衛星から電波を飛ばすとなると、各携帯電話会社が落札した周波数帯を利用することになる。携帯電話会社がオークションで購入した周波数帯を他社が使う場合、他社はレンタル料を支払う必要が出てくる可能性があるというのだ。そうした議論がまとまっていない中、ASTが動き出しているため、業界団体としては状況を注視している状態なのだという。

 楽天モバイルでは、昨年11月にスペースモバイルの日本での提供に向けて通信試験・事前検証用の実験試験局予備免許を取得。2024年末から2025年にかけて、衛星通信サービスを提供する計画だ。

 しかし、あと2年で世界的に、すでに地上で使っている周波数帯を衛星通信に使えるように制度的に解決するのか。ひとつの注目ポイントになりそうだ。

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