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ロケットで電離圏観測 学生と共に 奈良高専准教授の芦原佑樹さん

2022.09.05 14:55

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 【奈良】今年8月、鹿児島県の内之浦宇宙空間観測所からJAXAの観測ロケット「S―520」32号機が打ち上げられた。奈良工業高等専門学校の芦原佑樹准教授(42)が提案した同高専と4大学による共同実験だ。

 実験の目的は、地上80~300キロの電離圏の観測。上空では大気の一部が電離している。大気中の電子の密度は均一ではなく、季節や時間によって波状の濃淡などが生じる。

 電離圏は電波を反射する性質があり、電子密度の濃淡は、GPSなどの衛星を利用した位置情報システムの精度にも影響を与える。近年、ドローンや自動運転への応用も進められており、精細な情報が必要になってきている。

 電離圏の状態は地上から電波を発射し、反射までの時間を計るなど、遠隔で観測する方法が主だ。だが、ロケットを使い電離圏の中に機器を入れることで、より詳細な構造を知るためのデータが得られる。濃淡が生じる仕組みを解明するために重要だ。

 芦原准教授が電離圏の状態について研究を始めたのは、富山県立大学の大学院に在学していた約20年前。高校時代にアマチュア無線を始めるなど電波に興味を持っており、大学では電磁波工学の研究室に進んだ。観測ロケット実験も経験した。

 2008年に同高専に赴任し、11年から今回の観測のための研究を始めた。機器の開発を専門メーカーに任せるのではなく、「実際に手を動かしてやってみないとわからないことがある」と、研究室の学生らと一緒に試行錯誤してきた。

 例えば、ハンダ付け。ものづくりに携わる高専生なら手慣れた作業だ。

 ロケットを打ち上げる際、側面に接する部分は温度が200度くらいまで上がる。既製品のアンテナを改造して、米粒ほどの小さな部品を、耐熱品に交換する必要が出てきた。

 ところが、一般的なハンダでは200度になると溶けてしまう。鉛を含まない、融点の高いハンダは扱いが難しく、うまく部品を接続できない。なんとかくっつけたが、振動試験をすると外れてしまう……。「最後はハンダ付けに泣かされるのか」と頭を抱えた。

 他にも多数の難題やトラブルに見舞われたが、その都度、皆で乗り切った。「そういった現場での気づきや経験、困難にあったときの解決方法は、エンジニアとしてどんな分野にいっても通じる」。学生による機器開発の取り組みは、文部科学省の事業の宇宙航空人材育成プログラムにも採択された。

 基礎研究を始めて11年、学生11人が携わった観測機器を積んだロケットは、8月11日午後11時20分に打ち上げられた。学生2人も参加し、機器が正常に作動するかを見守った。受信できる電波が一時的に想定より少なくなり、「心臓が止まりそうになった」。だが、最終的には問題なくデータを取得。ロケットは電離層に達し、打ち上げから522秒後に内之浦の海上に落下し、成功裏に終わった。

 今後はデータを解析して仮説の検証をするとともに、観測の改良方法を検討して、「ロケット実験にまたチャレンジしたい」。(上田真美)

奈良高専の芦原佑樹准教授=2022年8月26日、大和郡山市矢田町
奈良高専の芦原佑樹准教授=2022年8月26日、大和郡山市矢田町

(この記事は朝日新聞デジタルに2022年9月5日10時30分に掲載された記事の転載です)

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