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宇宙探査の技術を家庭に応用–NASAが民間と共同開発中の人型ロボット「Astra」

2022.12.23 08:00

ZDNet Japan

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 Apolloが家族の新たな一員になるには、手頃な価格を実現し、家庭のような動的な環境で使えるくらいに安全で機敏な動きができなければならない。

 ホームアシスタンスロボットはしばらく前からあるが、Apolloよりはるかにシンプルな形態で、機能が限られている。たとえば、「Roomba」は床の掃除は得意だが、ゴミを出すことはできない。一方、倉庫などの商業スペースには全く異なるロボットが配備されていて、箱の移動といった特定の作業を行う。これまで、Apolloのような汎用ロボットの開発は、少し非現実的なことだと思われていた。

 では、航空宇宙を専門とする組織のNASAが、なぜ地球上で使われる汎用ロボットの開発に関心を持っているのだろうか。NASAのJohnson Space Center(JSC)のDexterous Robotics Teamでリーダーを務めるShaun Azimi氏は、できるだけ多くの人に利益をもたらすこともNASAの使命だと述べている。

 「NASAの目標は、宇宙探査の技術を開発することだけではない」とAzimi氏。「これらの技術を地球上で利用できるようにしたい。また、パートナーと進めている開発プロジェクトの成果が、できるだけ多くの人に提供され、人類全体に最大限の利益をもたらすことも望んでいる」

 Apolloが人類に貢献できる重要な方法の1つは、商業部門を支援することだ。Apolloは、人間が必ずしもやりたいわけではないが、産業と経済の維持に不可欠な作業を引き受けることで、サプライチェーンの問題を軽減するだろう。

 パンデミックの発生以来、米国では労働力不足が続いている。全米経済研究所の調査によると、新型コロナウイルス感染症により、米国の労働参加率は2022年6月時点で約50万人減少していたという。これは、人間の労働者を排除することなく労働力不足を解消する必要性が、かつてないほど高まっていることを意味する。

 「すぐに人間に取って代わるとは思っていない」とAzimi氏は述べた。「しかし、人間を支援できるロボットを作ることになるだろう。それこそがわれわれの目標だ」

 これは特に、宇宙ミッションで作業するロボットに当てはまる。これらのロボットは、機器の保守や検査など、地味ではあるが極めて必要性の高い責任を負うことになる。

 Apolloの主な役割は、長期滞在のための基地を設置することだ。これは人間による他の惑星や天体(月や火星など)での宇宙ミッションの基地で、ロボットが乗組員よりも先に惑星に到着して、長期滞在に必要なすべてのものを準備する。ここで重要なのは、実際の乗組員が引き続きミッションの遂行に不可欠であるという点だ。

Apptronikが想像する未来の火星基地(出典:Apptronik)
Apptronikが想像する未来の火星基地(出典:Apptronik)

 「宇宙飛行士に取って代わろうとしているわけではない。それが近い将来に可能になるとは考えていないからだ」とAzimi氏。「また、本当にそうしたいかどうかも分からない。それよりも重要なのは、宇宙飛行士が使える時間を増やすことだ」

 Apolloロボットの開発資金の一部は、NASA、民間の石油/ガス企業Woodside Energy、非正規戦技術支援局(Irregular Warfare Technical Support Directorate:IWTSD)のパートナーシップによって提供されている。IWTSDは、以前はテロ対策技術支援室(CTTSO)として知られていた米国防総省の部局だ。

 ITWSDは人型ロボットの開発を支援して、爆発物処理(EOD)の任務に利用しようとしている。従来の爆発物処理では人間が危険にさらされる可能性があり、一般的に爆発装置や即席爆発装置(IED)への接近や調査を担当するのは対爆スーツを着た人間であるため、非常に危険な活動になることがある。

 「NASA、そしてITWSDとのパートナーシップで重視しているのは、生命の保護と危険の軽減だ」とAzimi氏は語る。「宇宙飛行士が損傷した機器を修理するために危険な(任務)に赴かなくてもいいようにする場合も、IEDの疑いがある車両に爆発物処理班が接近しなくてもいいようにする場合も、用途は多少異なるが、目的はよく似ている」

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