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市民の「第九」合唱を宇宙へ、人工衛星開発の起業家が計画

2022.12.08 11:37

朝日新聞

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 京都の起業家が人工衛星の打ち上げに向けて活動している。ミッションの一つは歌声を宇宙に運ぶこと。早ければ来年後半にも実現する。

 「準備は順調です。平和を願うみなさんの思いを宇宙に届けたい」

 そう話すのは北川貞大さん(54)。ベンチャー企業「テラスペース」の代表取締役だ。京都市内で情報通信企業を経営しながら京都大の経営管理大学院で経営学を学んでいた2020年、京大内に本社を置く形で起業した。

 テラスペース社は世界遺産・醍醐寺(京都市伏見区)と共同で、世界初の「宇宙寺院」を作ることを目標にしている。

 宇宙寺院「浄天院劫蘊(ごううん)寺」は、縦30センチ、横20センチ、高さ10センチの超小型人工衛星内に収められ、高度400~500キロの軌道を約1時間半で周回し、地球の平和を祈るというものだ。

 そのために同社は、北川さんの出身地・京田辺市に宇宙機開発室を開設し、スタッフらが人工衛星の開発に取り組んでいる。試作機はほぼ完成。23年に1号機を製作し、同年後半から24年前半にかけてのどこかで打ち上げる予定だ。

 「従来2億~10億円かかっていた超小型人工衛星を、打ち上げ費用も含めて1億円以内に抑え、中小企業でも気軽に宇宙を活用できるようにしたい」と北川さんは話す。

 この人工衛星に一緒に載せようとしているのが、京田辺市民の歌声だ。

 北川さんはチェロ演奏が趣味で、NPO法人「京田辺音楽家協会」の役員でもある。協会は20年に市内初のプロのオーケストラ「一休フィルハーモニー」を設立しており、合唱団への市民参加を募った上で今年12月、「『全』市民第九演奏会」を開く。

 北川さんは演奏会の実行委員長を務める。合唱団への参加を呼びかけるにあたって「参加者の名前を刻んだ銘板と演奏の映像・音声が人工衛星に搭載される」とPRすると、約100人が集まった。

 協会の竿下(さおした)和美理事長は「地上の友愛から神々の喜びの理想に至るというのが、ベートーベンの『第九』の歌詞のテーマ。天幕のかなたの父へ市民の歓喜の歌を届けるという、歌詞の世界が実現するようです」と喜ぶ。

 北川さんも「ベートーベンは平和や互いを思いやる思いを込めて第九を作曲した。1824年の初演から200年を迎える記念にもなる」と話している。

 演奏会は24日午後2時半から、京田辺市田辺中央体育館で開かれる。S席3千円、一般2千円。問い合わせはテラスペース(0774・74・8202)へ。(甲斐俊作)

人工衛星の試作機を持つ北川貞大さん(中央)とテラスペースの研究スタッフたち=2022年12月5日、京都府京田辺市のテラスペース、甲斐俊作撮影
人工衛星の試作機を持つ北川貞大さん(中央)とテラスペースの研究スタッフたち=2022年12月5日、京都府京田辺市のテラスペース、甲斐俊作撮影

(この記事は朝日新聞デジタルに2022年12月7日10時15分に掲載された記事の転載です)

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