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「輸送/超小型衛星ミッション拡充プログラム」に見るJAXA流宇宙ビジネス育成術

2022.06.23 08:00

田中好伸(編集部)

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 宇宙航空研究開発機構(JAXA)の新事業促進部は5月に新しい研究開発プログラム「輸送/超小型衛星ミッション拡充プログラム」(拡充プログラム)を発表した。第1弾として超小型衛星ミッションの公募を開始した(締め切りは6月30日)。

 今回の拡充プログラムは、大学や民間企業、JAXAが連携して革新的な技術にも挑戦する超小型衛星ミッションを民間の打ち上げサービスを活用して宇宙への輸送サービスの多様化も促す新しい研究開発プログラムと説明する(超小型衛星は一般的に100kg以下とされるが、今回の対象は50kg以下)。

世界に追い付きたい

 「世界で進む『超小型衛星革命』–生みの親が語る日本が乗り遅れる理由」で超小型衛星の“生みの親”である中須賀真一氏が言っているように世界では超小型衛星が、「教育や実験ではなく、『実用』で使われている」。今回の拡充プログラムについて、JAXA 新事業促進部 事業支援課 主任の島﨑一紀氏は「日本も世界に追い付きたい」という思いがあることを解説した。

JAXA 新事業促進部 事業支援課 主任 島﨑一紀氏
JAXA 新事業促進部 事業支援課 主任 島﨑一紀氏

 拡充プログラムでは、50kg級以下の超小型衛星を活用したミッションを大学や企業から募集して、選ばれたものにはJAXAが共同研究者として参画、JAXAが実際の打ち上げまで導く。研究開発の成果は、軌道上で実証される。

 応募したミッションは、その内容の実現可能性があるかどうかを検討する「フィージビリティスタディ」フェイズ(期間は約1年)でプロジェクト計画などを作成する(JAXAも共同研究者として参加)。次の段階に移行可能かどうか審査された後に「衛星開発」フェイズ(期間は約2年)に移行する。作成されたプロジェクト計画に基づき、JAXAが選定した民間の打ち上げサービスで衛星を打ち上げることになる。

 ミッションは、拡充プログラムのプログラムオフィスとなるJAXA新事業促進部内に設置されたステアリングボードによって検討、選定される。ステアリングボードはフェイズ移行を審査するとともに、計画の変更なども判断する。

 選定されるミッションは年間2~3件を考えている。拡充プログラムの応募条件としては、フィージビリティスタディで「1年後に衛星開発を開始し、3年後に打ち上げられる」ことが求められている。なお、初回である2022年度のミッションでは、衛星開発フェイズからの共同研究を開始する提案も受け付ける(衛星の規模は6Uと12U、10cm立方=1U)。

ミッションを創出して産業を振興

 応募されたミッションはさまざまな視点から審査される。一次選考では「軌道上での技術実証意義が高い提案になっているか」「軌道上運用の実現性があるか」などの技術評価、「JAXAの研究開発の進展が期待できる提案であるか」「提案するミッションや技術は世界的に見て独創性あるいは技術的・経済的な観点での優位性があるか」などJAXAとの共同研究との視点でも評価される。

 今回の拡充プログラムの超小型衛星ミッションで注目したいのが、最終選考での審査ポイントだ。最終選考では、以下のような点でも審査される(一部を抜粋)。

  • 事業化予定時期までの国内、海外の市場規模推移などの他、今後の成長性や他の市場・技術の拡大による縮小のリスクが検討されているか
  • 事業化される製品・サービスが競合する製品・サービスに対し、性能や価格などの面でどのような優位点や劣った点を有するのか
  • 目標とする売上高、利益、シェア、出荷数などの具体的数値と達成時期は明確か
  • 最終的に目指す製品・サービスの事業化までのマイルストーンとスケジュール(開発、製品化、販売スケジュール)は明確か
  • 事業化までの事業実施体制の準備計画は明確か。また、事業化される製品・サービスの販売計画について、それを実現するための方法、体制、販売チャネル、スケジュールなどは明確か

 つまり、超小型衛星を活用したビジネスになれるかどうかを見極めようとしているのである。JAXA 新事業促進部 事業開発グループ 参事を務めている高田真一氏(「J-SPARC」プロデューサーを兼務)は、今回の拡充プログラムで採択される超小型衛星ミッションの成果が「産業振興につながる」ことを意識していることを明かした(JAXAが選定する打ち上げサービスを利用するというのも同じ考えからだ)。

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