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国際宇宙ステーションの「空気漏れ」、修理により3分の1まで減少–NASA報告
米航空宇宙局(NASA)の監察総監室(Office of Inspector General:OIG)は米国時間9月26日、国際宇宙ステーション(ISS)のロシア区画での空気の漏洩速度が減少していると報告した。
報告書では、6月に発生したロシアの「Zvezda」(ズヴェズダ)モジュールの一部で発生した空気の漏洩を「最高レベルのリスク」に引き上げた。一方で、ドッキングポートをモジュールから分離する、「PrK」と呼ばれる場所からの空気の漏洩は、最近の修理作業で約3分の1へと減少しているという。
海外メディアのSpaceNewsによると「Crew-9」の打ち上げ前に9月27日に開かれた記者会見でNASA次官のJim Free氏は「漏洩の原因とそれがISSの運営にどのような影響を与えるかどうかを理解するため、ロシアと協力する」と述べている。報告書では「漏洩の根本的な原因は調査中だが、内部と外部の溶接部に焦点を絞っている」としている。
ISSの乗組員は、使用していないときはPrKのハッチを閉じておき、空気の漏れを緩和している。「空気の漏れが許容できないレベルに達する前にハッチを監視し、閉じることができると確信している」と、OIGの報告書は述べている。
1998年に建設が始まり、2011年7月に完成したISSは2030年に運用が終了することが決まっている(当初予定では2016年)。2031年以降にSpace Exploration Technologies(SpaceX)が開発する「軌道離脱機」で現在の軌道から漂流して大気圏に再突入するまでに12~18カ月かかるとされている(軌道離脱機は、SpaceXの無人補給船「Cargo Dragon」をベースに開発)。
ISS退役後(ポストISS)は、民間企業が開発、所有、運用する「商用宇宙ステーション」が現在のISSの役割を引き継ぐことになっている。商用宇宙ステーションは「Starlab」「Orbital Reef」「Axiom Station」などの研究開発が進められている。
NASAは、商用宇宙ステーションや軌道離脱機がスケジュール通りに進まないことも含めて、2030年以降の運用延長も選択肢として残している。
OIGの報告書では、ISSについて「世界で傑出した軌道上の微小重力研究開発施設」と表現。地球低軌道(LEO)での「NASAの商業化構想や月や火星を目指すNASAの長期的な深宇宙探査目標の足がかりとしての役割を担っている」とISSの位置付けを説明している。
その一方でISSに関連する運用や研究には年間41億ドル(約5900億円)、NASAの年間予算の16%が費やされていると説明。ISSの「老朽化に伴い、ISSに滞在する宇宙飛行士の安全を確保し、科学研究やISSの維持を含む継続的な運用を維持することが課題」と指摘している。
OIGの今回の報告書は、2030年までISSの運用を維持するため、という意識が背景にある。
報告書では、空気漏れのほかに、乗組員や物資のISSへの輸送をSpaceXという単一企業に依存していることをリスクと指摘している。NASAは、乗組員の輸送を「商業乗員輸送プログラム(Commercial Crew Program:CCP)」として、物資の輸送を「商業補給サービス(Commercial Resupply Services:CRS)」としてSpaceXに有償で委託している。
先日、有人飛行試験(Crew Flight Test:CFT)として米Boeingの宇宙船「Starliner」は2人の宇宙飛行士をISSに運んだ(スラスターの過熱が断熱材の脱落につながる可能性があり、トラブルを起こさずに帰還できるという確証が得られなかったことから無人で帰還した)。開発予算が大幅に超過しながらもStarlinerをNASAが選択肢として残しているのは、こうした判断が背後にあるからだ(Starlinerの実運用は現段階で2025年8月以降と予定されている)。
報告書では、LEOを周回する宇宙ゴミ(スペースデブリ)もISSの維持に大きな影響をもたらしうるリスクとして挙げている。