ポーラとANA HDが共同開発のスキンケア、ISSに2024年に搭載--保温成分を開発

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ポーラとANA HDが共同開発のスキンケア、ISSに2024年に搭載–保温成分を開発

2023.08.29 07:30

阿久津良和

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 ポーラとANAホールディングスは8月28日、共同で開発したスキンケア製品が2024年に国際宇宙ステーション(ISS)に搭載が決定した旨を発表した。化粧品がISS搭載にされる日本で初めてという。

 ポーラはスキンケア製品の新ブランド「COSMOLOGY」を立ち上げ、2024年にISSに搭載される予定のスキンケア製品「コスモロジー スペースクルーキット」(税込価格7480円)を10月1日から販売する。

 ポーラとANAホールディングスは2020年9月に「宇宙ライフを美しく快適に」をコンセプトにしたプロジェクト「CosmoSkin」を共同で開始した。宇宙と地球の未来を豊かにすることを目的に、オープンイノベーションで極限状態の宇宙で快適に使える製品を目指した。

 ポーラ 代表取締役社長 及川美紀氏は「宇宙と地球の未来を豊かにすることを目的に極限状態の宇宙で快適に使える製品を目指した。ANAからは航空機内とIISの環境類似性に関する知見をいただき、機内環境のヒアリングや航空機内で勤務される客室乗務員にも試験協力を得て開発してきた」と解説する。

ポーラ 代表取締役社長 及川美紀氏
ポーラ 代表取締役社長 及川美紀氏

 ANAホールディングス 上席執行役員 グループ経営戦略室 事業推進部長 塩見敦与氏も「我々も将来の宇宙事業を視野に入れている。宇宙産業の技術を地球における航空産業や宇宙産業に取り入れることで、多様な成長の可能性を追求する」と今後を見据えた。

ANAホールディングス 上席執行役員 グループ経営戦略室 事業推進部長 塩見敦与氏
ANAホールディングス 上席執行役員 グループ経営戦略室 事業推進部長 塩見敦与氏

製品に含まれる成分の使用が制限に

 JAXAは、2021年8月2日~9月30日に「第2回 宇宙生活/地上生活に共通する課題を解決する生活用品アイデア募集」を実施。この制度は、宇宙へ民間人が進出する時代を踏まえて、宇宙や地上での生活課題を解決するとともに“生活の質”(Quality of Life)向上を目的としている。

 宇宙滞在中の利便性向上や地上課題の解決・社会的影響、開発の実現性、ISSへの搭載可能性と4点を総合的に評価し、応募があった65件から9件を選定。JAXA自身が開発協力に乗り出して製品化、宇宙での実用化に取り組んできた。その結果がスペースクルーキットになる。

 ポーラの及川氏は「宇宙でも快適に使える機能性とシンプルさを追求したデザインを施しつつ、クレンジングからクリームまでケアできる」とアピールした。

 スペースクルーキットは、クレンジングウォッシュとローションクリームで構成。それぞれ、2024年1月1日からは「コスモロジー クレンジングウォッシュ」(税込価格6160円)「コスモロジー ローションクリーム」(同6600円)として発売される。

IISに搭載されるスペースクルーキット
IISに搭載されるスペースクルーキット
宇宙利用を想定した2製品
宇宙利用を想定した2製品

 本来スキンケアとは、皮膚を清潔に保ちながら乾燥や肌荒れを防ぐための手入れを指している。だが、過酷な宇宙環境では通常のスキンケア製品が使用できず、IISも多くの持ち込み制限を設けている。

 ポーラが極地建築家の村上祐資氏と宇宙飛行士の山崎直子氏に聞き取り調査したところ、「毎日お風呂に入れない極限状態でも『髪をとかす』という習慣を持つことでアイデンティティーを保つクルーがいた」「閉鎖空間のIISで口紅を塗るだけでも気分が明るくなる」との意見を踏まえ、「過酷な環境下でも我々が普段当たり前にしている行動が、自分自身をケアして五感で心地よさを感じる時間こそ、自分らしく調和の取れた状態に導くヒントになる」(ポーラ 開発メンバー 弘谷和音氏)と開発背景を説明した。

 しかし、2022年には、製品に含まれるエタノールシリコーンが使用制限に。ポーラの弘谷氏は「2020年から開発に着手してから3年間、多くの苦悩があった。未知の宇宙品質や従来の基準も通用せず、JAXAとやり取りを繰り返した。2年間開発を進めてきた処方成分が使用禁止となり、いちから処方も開発した」と過去の取り組みを振り返った。その結果として、ポーラは独自の複合保温成分として、チョウジやホホバ葉を用いた「ホホバクローブエキス」を開発した。

ポーラ 開発メンバー 弘谷和音氏
ポーラ 開発メンバー 弘谷和音氏

 多忙な宇宙飛行士に手間を負わせず、節水や微小重力への対応が必要となる化粧品を宇宙空間に持ち込むことは難しい。ポーラは、開発にあたって、「水を感じる設計」「肌への負担軽減」の実現と前述した成分禁止に対応するため、「処方開発中でシリコーンが使用できないと判明し、みずみずしさを兼ね備えた処方をいちから検討」(ポーラ化成工業 研究員 木内里美氏)した結果、ジェルクリームがローションに変化する三次元立体構造処方にたどり着いた。

ポーラ化成工業 研究員 木内里美氏
ポーラ化成工業 研究員 木内里美氏

 ポーラ化成工業の木内氏は「宇宙はコットンのみならずティッシュペーパーを使うことも想定して摩擦影響を抑制。洗い流せないときの肌負担を軽減するため、界面活性剤を減少させ、保湿剤にクレンジング機能を付与した」と特徴を説明した。

製品のデモンストレーション
製品のデモンストレーション

 地上の実証実験で微小重力での骨減少症や過度なストレスが肌の乾燥に影響していることに着目し、代謝調節や骨形成促進性に影響があると思われる「オステオカルシン」と呼ばれる成分が肌乾燥に関与していることを発見。「オステオカルシンの血中濃度が高いほど、皮膚バリア機能が高く、潤いが逃げにくい」(木内氏)ことを証明した。

 COSMOLOGYの製品が宇宙環境にとどまらず、地上でも運動不足やストレスなどによる骨量減少にオステオカルシンによる皮膚バリアが有効的と説明。ポーラとANAホールディングスの実証実験では、IISの環境に類似する旅客機の客室乗務員にアンケートしたところ、肌の滑らかさを感じた割合は約1.6倍、肌の潤いは1.4倍という結果となった。

 記者会見にビデオメッセージを送った、宇宙飛行士の山崎直子氏は以下のようにコメントした。

 「宇宙船内は微小重力で空気が乾燥する。リサイクル使用する水も使用量に制限があり、蛇口から流せない。お風呂もシャワーを使えず、自分を清潔に保つのが難しくなる。COSMOLOGY製品は洗い流さず拭き取るだけで水洗と同じ清涼感を得られ、肌がしっとりするのは便利」

宇宙飛行士 山崎直子氏
宇宙飛行士 山崎直子氏

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