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ユネスコ文化・言語遺産、月に輸送へ–ispace欧州法人開発の探査車に搭載

2025.05.22 08:00

UchuBizスタッフ

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 ispace(東京都中央区)の欧州法人ispace EUROPEは米企業Barrelhandと国連教育科学文化機関(UNESCO、ユネスコ)の文化・言語遺産を保存した記憶ディスク「Memory Disc V3」を月に輸送するペイロードサービス契約を締結した。ispaceが5月21日に発表した。

 Memory Disc V3は、ispace EUROPEが開発する小型探査車(マイクロローバー)に搭載される。マイクロローバーは、米法人ispace technologies U.S(ispace US)が主導する、民間月探査計画「HAKUTO-R」のミッション3として月の南極付近に位置する「Schrödinger Basin(シュレーディンガー盆地)」を目指す着陸船(ランダー)から月面に展開される予定。

 マイクロローバーに搭載されるMemory Disc V3は、直径19mm、厚さ1.2mm、重さ1.7gという小型の記憶媒体。「Nano Fiche」と呼ばれる技術を活用して、約4GB分の現代の象形文字に相当する情報が原材料であるニッケルの表面に超微細に刻まれているという。

 当初は宇宙飛行士の心理的な支えとなることを目的としてBarrelhandが考案したが、現在では、人類の記憶や文化を後世へと継承するための、普遍的かつ象徴的なプラットフォームへと進化を遂げていると説明している。

 月まで輸送される記憶ディスクは、放射線や極端な温度変化、真空といった過酷な宇宙環境にも耐えられるよう、ニッケルが持つ高い耐久性を生かして設計されていると解説。紙や一般的なデジタルメディアとは異なり、物理的な劣化がほとんど生じないことから、数百万年単位での長期保存が可能としている。

 最大13万DPI(dots per inch)という顕微鏡レベルの超高解像度で刻まれた情報は、極限の環境でも電力やデジタル機器を使うことなく、光学的な拡大だけで読めると説明(ispaceは「現代版のロゼッタストーン」と表現している)。現在も開発は進められているMemory Disc V3は、これまでのシリーズの中でも最も洗練されたものという。

 国連総会は「国際先住民族言語の10年(2022~2032年)」を制定することを2019年に決議。これは、先住民族問題に関する常設フォーラムからの提案に基づくものという。

 同フォーラムでは2016年時点で世界で使用されている推定6700の言語のうち40%が消滅の危機にあると警鐘を鳴らしており、その大半が先住民族の言語であることから、これらの言語とともに文化や知識体系までもが失われるリスクについて指摘している。

Memory Disc V3とディスクに刻まれた情報の画像(出典:Barrelhand)
Memory Disc V3とディスクに刻まれた情報の画像(出典:Barrelhand)
Memory Disc V3とディスクに刻まれた情報の画像(出典:Barrelhand)
Memory Disc V3とディスクに刻まれた情報の画像(出典:Barrelhand)

 HAKUTO-Rのミッション3は、月着陸ミッション「APEX 1.0」として進められている。打ち上げ予定は当初、2026年だったが、現在は2027年となっている

 APEX 1.0(正式には「Team Draper Commercial Mission 1」)は、米Charles Stark Draper Laboratory(Draper、米マサチューセッツ州)を代表にした企業グループ「Team Draper」にispace USが参加して、ispace USがランダーの設計と製造、ミッション全体の運用などを担当する。

 Draperは、観測装置などの貨物(ペイロード)などの月までの輸送を米航空宇宙局(NASA)が有償で民間企業に委託する「商業月面輸送サービス(CLPS)」をNASAと契約。Team Draperは、CLPSのタスクオーダー「CP-12」を担う(CP-12に搭載される装置はすでに決まっている)。

 HAKUTO-Rのミッション1(2023年4月に着陸を試みるも失敗)とミッション2(2025年1月に打ち上げ6月6日に着陸予定)についてispaceは研究開発(R&D)に位置付けているが、ミッション3以降は本格的な商業化活動と位置付けている。

ispace USが開発を進めるAPEX 1.0ランダーのイメージ(出典:ispace)
ispace USが開発を進めるAPEX 1.0ランダーのイメージ(出典:ispace)

関連情報
ispaceプレスリリース
Memory Disc

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