ニュース

ispace米法人、月着陸船のエンジンを変更–打ち上げは2027年以降に変更

2025.05.14 08:00

UchuBizスタッフ

facebook X(旧Twitter) line

 民間月探査計画「HAKUTO-R」を進めているispace(東京都中央区)の米法人ispace technologies U.S.(ispace US)は、HAKUTO-Rのミッション3で使用する月着陸船(ランダー)「APEX 1.0」にエンジン「VoidRunner」を搭載する。5月9日に発表した。

 今回の措置でミッション3の打ち上げは2026年から2027年以降に変更される。

 ミッション3は、米Charles Stark Draper Laboratory(Draper、米マサチューセッツ州)を代表にした企業グループ「Team Draper」にispace USが参加して、ランダーの設計と製造、ミッション全体の運用などを担当する。

 Draperは、観測装置などの貨物(ペイロード)などの月までの輸送を米航空宇宙局(NASA)が有償で民間企業に委託する「商業月面輸送サービス(CLPS)」をNASAと契約。Team Draperは、CLPSのタスクオーダー「CP-12」を担う(CP-12に搭載される装置はすでに決まっている)。

 CP-12としてTeam Draperは月着陸ミッション「APEX 1.0」を進め、ispace USがAPEX 1.0ランダーを設計、製造している。APEX 1.0はSpace Exploration Technologies(SpaceX)のロケット「Falcon 9」で打ち上げられる。打ち上げはこれまで2026年を予定していた。

 今回新たに搭載が決定したVoidRunnerは、米Agile Space Industries(コロラド州デュランゴ)とispace USが共同で開発している。

 Draperを中心にしたチームは、VoidRunnerの適用がミッション3の技術上、スケジュール上のリスクを最小化できる解決策であると判断。当初のエンジン案からVoidRunnerに仕様を変更することで、エンジンの部品数は4分の1に削減され、結果的に機体構造を大幅に簡素化できると説明する。

 VoidRunnerへの仕様変更で機体設計を再調整する必要が出てきたことでを2027年以降に打ち上げることになったと説明している。

 ispace USが独自開発したバルブでVoidRunnerのスロットル制御を実現し、高い信頼性を持った推進システムを構築でき、ミッション成功の確度がより高まることが期待されるとしている。

 APEX 1.0ランダーには当初、Agileのエンジン「A2200」を搭載する予定だったが、検討の結果、予定されていた調達スケジュール内での供給が難しいことが判明。その後、ispace USに加え、DraperやAgileが複数回協議して、簡素化した構成の新型エンジンのVoidRunnerを開発する方針を決定した。

 VoidRunnerは、既存のエンジンアーキテクチャをベースに推力とノズル効率を最適化し、APEX 1.0向けに再構成されたものになる。すでにAgileの真空環境下でのエンジン燃焼試験を通じて検証され、設計の簡素化とシステムの信頼性向上が実証されていると説明。推進系のサブシステムの簡素化は開発スケジュールの実現性を大きく向上させたと解説する。

 今後、VoidRunnerの詳細設計審査(Critical Design Review:CDR)を2025年秋に予定しており、その後、グローバルCDRを2025年冬に実施予定。

Agileの試験施設で燃焼試験をしているVoidRunner(出典:ispace)
Agileの試験施設で燃焼試験をしているVoidRunner(出典:ispace)

 ミッション3では、2機の通信中継衛星を活用した、データサービスを提供する計画となっている。2機は、月の南極付近に位置する「Schrödinger Basin(シュレーディンガー盆地)」に着陸する予定のランダーと地球の通信を中継する。ランダーが月に着陸する前に月を周回する軌道に投入される計画となっている。

 CP-12の科学調査が完了した後、2機の通信中継衛星は極域を起点に月のほぼ全球をカバーする、円形に近い形で高高度で月の極軌道を周回する「高円極軌道(High Circular Polar Orbit:HCPO)」を航行する計画。7割近くの南極域と地球の間の通信が可能となり、より貴重なデータサービスの利用機会を顧客に提供するという。

 APEX 1.0完了後も数年間、2機は月周回軌道上に留まる予定。月面や月を周回する軌道上でペイロードで収集されたデータを顧客に提供するだけでなく、データを処理、統合することで将来的な月ミッションの実現や強化への貢献を期待できるとしている。

 ランダーを製造、運用する「月輸送ビジネス」を進めるispaceだが、通信中継衛星も運用することで、同社が狙う、地球と月の間の空間(Cislunar)で密接な経済関係が成り立つという「シスルナ経済圏」の構築も進めている

 HAKUTO-Rのミッション2「SMBC×HAKUTO-R VENTURE MOON」は1月15日に打ち上げ。ランダー「RESILIENCE」の月着陸は6月6日が予定されている

関連情報
ispaceプレスリリース

Related Articles