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量子コンピューター企業、SAR衛星のカペラスペースを買収–量子インターネット構想を加速
量子コンピューティング企業の米IonQ(イオンキュー)は米国時間5月7日、雲の下や夜間でも地球を撮影できる合成開口レーダー(SAR)衛星を開発、運用する米Capella Space(カペラスペース)を買収すると発表した。買収の金銭的条件は非公開であり、規制当局の承認の後に2025年後半に取引完了予定。
IonQは量子コンピュータのハードウェアとソフトウェアの開発に特化している。暗号鍵が盗聴されたかどうかを即座に検知し、通信の安全を保つ「量子鍵配送(QKD)」は、ハッキング不可能な通信を実現する技術として政府や企業から注目されている。今回の買収でIonQは世界初という宇宙ベースのQKDネットワーク構築に前進する。
Capella Spaceの買収と同時に、IonQは世界初の実用的な量子中継器を開発したというLightsynq Technologies(ライトシンク・テクノロジーズ)スタートアップの買収も発表した。衛星通信アンテナやゲートウェイの製造を手がける韓国のIntellian Technologies(インテリアン・テクノロジーズ)とも覚書を締結している。
IonQの最高経営責任者(CEO)であるNiccolo de Masi(ニッコロ・デ・マシ)氏は、「量子インターネット構想を加速させる絶好の機会だ。Lightsynqの長距離量子中継器と、Capella Spaceのトップシークレット級の信号処理能力を組み合わせることで、グローバルな量子セキュリティ通信ネットワークの構築が可能になる」と述べている。
IonQは、量子ネットワークを開発するQubitekk、量子耐性の高いネットワークや量子検出システムを開発するID Quantiqueの買収も発表している。
Capellaは政府機関や企業と機密契約を締結し、安全な施設を運営しているという。IonQがCapellaを買収することで宇宙ベースの量子ビジョンを構築する中で、防衛・諜報市場への参入の道筋となる可能性があると米メディアSpaceNewsは指摘している。

現在、インターネットで秘密を保つために必須となっているのが暗号通信だ。
暗号方式には「公開鍵暗号」と「共通鍵暗号」という2つの方式があり、実際のインターネット通信では、両者を組み合わせたSSL暗号方式が広く使われている。
共通鍵暗号は、通信内容の暗号化に用いられる方式で、受信側と送信側でAES暗号などの鍵を共有し、暗号化、復号化する。その共通鍵の受け渡しに使われるのが公開鍵暗号だ。
受信側が公開鍵と秘密鍵を生成する。受信側は送信側に公開鍵を共有し、送信側はその公開鍵で暗号化したデータを送信する。最終的に受信側は、自分しか知らない秘密鍵でデータを復号化する。
これらの鍵生成には「RSA」というアルゴリズムが用いられている。通常のコンピューターでは、RSA暗号を解読するには天文学的な時間を要する。
しかし、今後、量子コンピューターが実用化されれば、現在のオンライン取引などの通信の安全性が損なわれるリスクが懸念されている。
その対策として開発が進められているのが「量子暗号通信」だ。この技術は、物質の量子論的性質に基づき暗号鍵を生成することで、絶対に計算不可能な暗号を作り出し、通信の安全性を保証する技術だ。
しかし、光ファイバーによる量子暗号では伝送距離に制限がある。そこで注目されているのが地球を周回する衛星を応用したQKDだ。
現在、世界各国はQKDの研究開発に取り組んでいる。特に、中国は2017年に衛星実証実験に成功するなど、急ピッチで技術開発を進めている。シンガポールは2019年に実証用の衛星を放出した。
QKDは、通信する二者間での安全な通信を保証するために、量子力学の原理を利用して、予測不可能な真正乱数を衛星側で生成。それらの情報は、光子1粒1粒の持つ量子情報として地上局に送信される。
地上局で共有された情報を取捨選択し、最終的な鍵となる乱数配列を生成する「鍵蒸留」という工程が行われる。盗聴が発生した際は、量子論的の原理によって検知でき、盗聴されたデータは鍵の材料として使用されない。その結果として、絶対に解読不可能な鍵を生成できるとされている。