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NASA、重力のゆらぎを測る量子センサーを開発中–国家安全保障で重要なデータが得られる可能性

2025.04.18 12:26

塚本直樹田中好伸(編集部)

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 米航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)は米国時間4月15日、地球低軌道(LEO)で微細な重力の変化を検出する量子センサーを開発していることを明かした。

 JPLや民間企業、大学などと共同で開発している量子センサー「量子重力勾配パスファインダー(Quantum Gravity Gradiometer Pathfinder:QGGPf)」は、極低温の原子の雲を自由落下させ、その干渉パターンから微細な重力の変化を測定する。センサーは洗濯機ほどの大きさで、重量は約125kgと非常にコンパクトだ。

 日常生活では微小であるため、ほとんど検出できない重力のゆらぎは、水の移動や地殻変動、岩石の移動などによって引き起こされ、地球内部の構造に関する手がかりを提供する。研究者によれば、このセンサーを用いることで帯水層や鉱脈といった地下構造のマッピングが可能になり、航法(ナビゲーション)、資源管理、国家安全保障で極めて重要なデータが得られるという。

 「原子を使ってヒマラヤ山脈の質量を測定できる可能性がある」とQGGPfの概念について、JPL地球科学部門の主任技術者であり、JPL量子宇宙イノベーションセンター所長のJason Hyon(ジェイソン・ヒョン)氏が説明する。

 QGGPfは、ある地点にある物体が、そこから少し離れた地点にある物体と比較して、どれだけの速度で落下するかを追跡する。この2つの自由落下する物体の加速度の差は、重力の強さの差に対応する。

 この量子センサーは、2つの極低温のルビジウム原子雲を試験質量として使う。絶対零度近くまで冷却された、雲野中の粒子は波のように振る舞う。QGGPfは波の加速度差を測定する。

 NASAは2030年ごろまでに、この量子センサーを宇宙で実証実験する計画だ。技術実証ミッションでは、光と物質の相互作用を原子レベルで操作するための最先端ツールがテストされる。「センサーがどの程度うまく動作するかを把握するために、宇宙に打ち上げる必要がある。実現すれば、量子技術全体の進歩にもつながる」と、JPLのBen Stray(ベン・ストレイ)氏は語っている。

地球の重力地図。赤は重力が大きい地域を、青は重力が小さい地域を示す。より精緻なQGGPfがあれば、このような地図をかつてない精度で作成できる日が来るかもしれない(出典:NASA)
地球の重力地図。赤は重力が大きい地域を、青は重力が小さい地域を示す。より精緻なQGGPfがあれば、このような地図をかつてない精度で作成できる日が来るかもしれない(出典:NASA)

関連情報
JPLプレスリリース
Hyon氏などによる論文
Space.com

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