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ソフトバンクなど、5G基地局と衛星通信の電波干渉を抑圧する装置の実証実験に成功
2025.02.21 15:00
携帯通信事業者のソフトバンクに第5世代通信システム(5G)向けに割り当てられている3.9GHz帯(Cバンド)の電波は、通信衛星とやり取りする地球局の下り回線と同じ周波数帯。そのため3.9GHz帯の基地局の設置場所によっては電波干渉を与えてしまうことが課題となっているという。
こうした「与干渉」を回避するためには、5G基地局の送信電力の低減と基地局アンテナの指向性制御、地球局から50km以上の遠隔距離を取ることなどの干渉低減技術を活用して、5G基地局からの干渉電力を規定値以下にする必要があるという。そのため、地球局が周辺にあるエリアでは、ほかと比べて5G基地局の設置が困難になっている。

こうした課題を解決するため、ソフトバンクと東京科学大学(工学院 藤井輝也研究室)は、5G基地局が与える干渉を地球局で大幅に抑圧するという「システム間連携与干渉キャンセラー」の試作装置を開発。2023年内に室内の疑似環境での実験に成功した。
今回、実験基地局の免許を取得して実用環境に近い屋外で実証実験を実施。その有効性を確認したことを2月21日に発表した。
システム間連携与干渉キャンセラーでは、干渉キャンセラー装置を地球局に設置し、地球局で受信した衛星信号と、その干渉となる5G基地局の下り回線の信号(5G干渉信号)が混在している無線信号(混在無線信号)を分岐させて、干渉キャンセラー装置に入力する。
5G基地局の下り回線の送信信号を分岐させることで、一方は遅延装置を介して5G基地局から送信し、もう一方は分散型アンテナシステム(DAS)を活用して光ファイバーで干渉キャンセラー装置に転送する(この時、光ファイバーで転送した5G信号は、レプリカ信号または参照信号と呼ぶ)。

地球局に設置した干渉キャンセラー装置は、転送された5Gレプリカ信号を使うことで、混在無線信号内に含まれる5G干渉信号の大きさ(振幅、位相を考慮した複素振幅)を検出できる。検出した5G干渉信号の複素振幅と、5Gレプリカ信号を重畳して、5G干渉信号と全く同じ複素振幅を持つ5G信号(干渉キャンセル信号)を干渉キャンセラー装置で生成して、混在無線信号に合成して差し引くことで、衛星信号だけを衛星通信送受信装置に送信できる。
このシステムでは、地球局の有線ケーブルに手を加えない構成として、分岐回路と合成回路を一体化して、衛星通信送受信装置の直前に設置する分岐装置を開発した。
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干渉キャンセラー装置では、衛星通信アンテナで受信した5GのRF信号を分岐して取り込む。また、DASの親機では5Gレプリカ信号を光信号に変換して光ファイバーで転送し、DASの子機)で光信号を5GのRF信号に変換した後に、5Gレプリカ信号を干渉キャンセラー装置に取り込む。
実際のシステムでは、干渉キャンセラー装置に取り込むまでの経路や受信特性(受信フィルターや電力増幅器)がそれぞれ異なることから、5GのRF信号が完全に一致することはなく、その差によって干渉抑圧効果が減少。そこで、5GのRF信号の受信特性差が同じになるよう干渉キャンセラー装置に取り込む5GのRF信号の特性差を補正するフィルターを導入し、干渉抑圧効果の大幅な改善を図っているという。
5G干渉信号をキャンセルするためには、5Gレプリカ信号を5G干渉信号よりも早く干渉キャンセラー装置に到着させる必要があるが、5G基地局から送信する5G信号は、そのままでは光ファイバーで転送する5Gレプリカ信号よりも地球局へ早く到達してしまう。
そのため、5G基地局に設置した遅延装置を使って、5G干渉信号よりも5Gレプリカ信号の方が早く干渉キャンセラー装置に届くよう調整しており、衛星信号の到着時間を調整するような信号処理は加えていないとしている。このように、今回のシステムは、地球局の受信系に手を加えない構成となっている。
実証実験は、1月に東京科学大学 大岡山キャンパスのグラウンドで実施した。グラウンドの一方の端に衛星通信局(信号発生器)と5G基地局(信号発生器)を設置し、他方の端に地球局のアンテナの代用でパラボラアンテナを設置した。衛星通信局と5G基地局と地球局(パラボラアンテナ)間の距離は約120m。
無線通信の周波数は3.3GHz帯を活用し、衛星信号の電波は帯域幅40MHz、5G信号の電波は帯域幅80MHz、送信電力は地球局での受信電力が所定値となるように、衛星通信局と5G基地局の送信電力を設定した。
実証実験では、5G基地局の与干渉を効率よく抑圧でき、5G基地局の干渉がないときと同等の衛星通信の受信品質を維持できることを確認している。
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今回のシステムの一部は、2021年に情報通信研究機構(NICT)の「Beyond 5G 研究開発促進事業」の委託研究課題として採択された、「移動通信三次元空間セル構成」の研究によるもの。
ソフトバンクと東京科学大学は共同でシステムの実用化に向けた研究開発を進めていく。同大学では、有限な電波資源の有効利用に向けて、異なるシステムで同一周波数帯の電波を利用できるように周波数共用技術の研究を進め、電波を先に割り当てられた事業者である「1次利用者」と同じ周波数帯を後から割り当てられた事業者である「2次利用者」の壁を取り除くことを目指していくとしている。
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