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ISS長期滞在の宇宙飛行士、7割が「視力の変化」を経験–火星ミッションで課題となる可能性も

2025.02.06 13:03

塚本直樹田中好伸(編集部)

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 国際宇宙ステーション(ISS)に6〜12カ月滞在した宇宙飛行士の70%が視力に大きな変化を経験していることが海外メディアのSpace.comで報じられている

 この視力の変化は「宇宙飛行関連神経眼球症候群(Spaceflight-Associated Neuro-Ocular Syndrome:SANS)」と呼ばれる。症状としては視神経の腫れ、眼球後部の平坦化、視力の全般的な変化が含まれる。微小重力下で体内の液体が移動し、眼球に圧力がかかることで発生する。しかし、正確なメカニズムは明らかになっていない。

 これらの症状は宇宙飛行士が地上に戻ると改善し、症状が発生している間も矯正用メガネをかけるだけで管理できるという。しかし、長期間の影響はまだ不明であり、火星ミッションのような長距離の宇宙飛行では課題となる可能性がある。

 専門家は2000年代初頭からSANSを認識しており、メカニズムの解明と解決策を模索してきた。研究者や宇宙機関は薬物療法や栄養摂取、下半身に陰圧をかけて頭部からの液体を引き離すツールなど対策や治療法を研究している。

 モントリール大学のSantiago Costantino氏が率いる研究チームは、宇宙飛行士の目に著しい変化があることを明らかにした。眼圧が11%低下し、眼圧の変動幅である「眼圧脈波幅」が25%減少したという。眼球の縮小や視野の変化などの症状が伴っていたことも明らかになっている。

 研究では、5人の宇宙飛行士の脈絡膜(眼球の血管の層)の厚さが400マイクロメートルを超えていることを発見した。通常、健康な成人の平均的な脈絡膜の厚さは200〜300マイクロメートルである。

 「眼球の機械的特性の変化の観察は、SANSの症状を予測する根拠として役立つ可能性がある」とCostantino氏は説明。「これにより、長期間のミッション中に深刻な眼球の問題を発症するリスクのある、宇宙飛行士を事前に特定するのに役立つだろう」

ISSで眼底鏡検査を行う、第37次長期滞在クルーの宇宙飛行士のKaren Nyberg氏(出典:NASA)
ISSで眼底鏡検査を行う、第37次長期滞在クルーの宇宙飛行士のKaren Nyberg氏(出典:NASA)

関連情報
モントリオール大学発表
Space.com

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