将来宇宙輸送システム、小型ロケットの離着陸試験を開始--日本でも再使用型を

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将来宇宙輸送システム、小型ロケットの離着陸試験を開始–日本でも再使用型を

2024.08.15 14:30

UchuBizスタッフ

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 宇宙往還を可能とする輸送システムの実現を目指す将来宇宙輸送システム(Innovative Space Carrier:ISC、東京都中央区)は8月14日、宇宙往還を想定したロケットの離着陸試験を開始したことを発表した。

 同社は1月から小型離着陸試験機「ASCA hopper」の開発を開始。離着陸試験では、ロケットエンジンの燃焼や機体の離着陸、再使用に必要な点検整備という3つの要素を確認する。今回の離着陸試験は「ASCAプロジェクト」としては初の試験としている。

ASCA hopperのスペック(出典:ISC)
ASCA hopperのスペック(出典:ISC)

 通常のロケット飛行試験は、初期段階であっても年単位の開発や試験のスケジュールで進行するのが一般的と同社は説明する。2022年5月に設立の同社が開発開始からエンジン燃焼試験まで約7カ月という短期間で実現できたのは、アジャイル型の開発体制や組織体制によるものだと説明する。

 ASCA hopperの開発には、必要に応じて既成の技術や部品を積極的に取り入れることで期間を大幅に短縮できたという。人的リソースについても、開発スタッフを自社従業員だけで確保するのではなく、国内の航空産業や通信技術企業などと業務提携しながら、専門家を集めることで開発チームを組成していると解説する。

 日本の民間宇宙開発企業は従来、自社開発、自社完結することが一般的な開発プロセスとされている。ISCの場合、スタートアップならではの組織体制で異例の速度でプロジェクトを推進していくと説明する。

 同社はまた、ミッションに応じたプロジェクトを迅速に企画、設計、製造、試験する開発能力こそが中長期的に重要な資産になると解説。同社の場合、研究開発プラットフォーム「P4SD」(Platform for Space Development)を軸に開発能力の向上に努めているという。

 ロケットエンジンは複雑なシステムであることから開発が長期化し、巨額の資金が必要になるのが通例だ。ISCはまず、ASCA hopperの開発で小規模なガス押し駆動式のロケットエンジンを開発したという。ロケットエンジン開発で最も難易度の高いターボポンプが不要というガス押し駆動式を採用することで、より早期にシステムレベルでのエンジン開発能力を構築するとしている。

 その後でターボポンプの開発で高性能化や推進力の向上、小型化や軽量化などに段階的に取り組んでいくと説明。開発実績がある国内外のパートナーとの連携を通じてロケットエンジン以外の技術に関する成熟度を高めて、ロケットシステム全体の開発能力を向上させていくとしている。ASCA hopperの今後の試験は以下のように予定している。

  • 2024年9月:電装系(アビオニクス)結合試験=ASCA hopperの離着陸を制御する電装系を組み合わせたシステムレベルで検討する。これらの電装系はASCAシリーズでも利用可能なものとして今後の開発につなげていく
  • 2024年10月:ロケットエンジン統合燃焼試験=エンジンに加えて、機体を制御する電送機器を組みあわせて燃焼試験を実施。実際に飛行制御装置と制御方法でエンジンを制御して飛行を模擬した状態での燃焼状況を確認する
  • 2024年12月:着陸落下試験=ASCA hopperの着陸脚に実際の飛行時の落下状態を模擬した状態の衝撃を負荷する試験を実施

 2025年以降に、ASCA hopperの主たる試験として地上離着陸試験を実施する予定。ASCA hopperを実際に打ち上げ、着陸させることで再使用運航の課題を抽出する。打ち上げ高度は約10mを想定している。

 ASCA hopper開発を通じて得られた成果をもとにロケットシステム全体の開発能力を向上させて、2025年以降に試験を予定している小型衛星打ち上げ機「ASCA 1」、2030年代前半に試験を予定している有人輸送機「ASCA 2」の開発を着実に進めていくと解説している(同社は、米ロケットエンジン専業メーカーUrsa Major Technologiesの3Dプリント製エンジン「Hadley」をASCA 1に搭載することを明らかにしている)。

 2040年代には、1000回以上宇宙に飛び立てる、世界初という単段式宇宙往還機(Single Stage To Orbit:SSTO、スペースプレーン)である「ASCA 3」を目指す。約50人の乗客と物資を載せて地球上のあらゆる場所や軌道上の拠点へ運び、1日2回の高頻度でターンアラウンドできる宇宙輸送システムになるという。

関連情報
ISCプレスリリース
ASCA hopper

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