宇宙往復を目指すISC、3Dプリンターで推進薬タンクを製造--英企業などと提携

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宇宙往復を目指すISC、3Dプリンターで推進剤タンクを製造–英企業などと提携

2024.07.31 09:00

UchuBizスタッフ

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 宇宙を往復できる輸送システムの開発を目指す将来宇宙輸送システム(Innovative Space Carrier:ISC、東京都中央区)は3Dプリンターによる推進剤タンクの製造に着手した。7月30日に発表した。

 3Dプリンターで推進剤タンクを製造するために、同社は「WAAM」技術で世界的知見があるという英クランフィールド大学、同大学からスピンオフした英WAAM3D、日本の愛知産業(東京都品川区)と業務提携した。

 WAAM(Wire-Arc Additive Manufacturing)は、金属同士をつなげるアーク溶接の手法を応用し、溶接中に凝固した金属を積み重ねていくという技術。米国防総省が潜水艦の部品を造形するために導入するなど、大型構造物の造形が可能として注目を集めていると説明する。

 ISCは2022年5月に創業したスタートアップ企業。「5年度で再使用型宇宙輸送機を開発する」というチャレンジングな目標を掲げている。この目標のためには、開発効率の飛躍的な向上が欠かせないと説明。そのため、従来のウォーターフォール型ではなく、アジャイル型の実現を目指している。

 アジャイル型開発を実現させるために、3Dプリンターは欠かせないと説明。3Dプリンターを活用することで製造期間が短縮できるという。製造、試験、修正を繰り返すことで開発速度を向上できるとみている。

 従来は部品ごとに形成し、別途組み立てる必要があった。3Dプリンターであれば一体形成できることから、部品の管理や組み立てといった面でも大きなメリットがあるとしている。自由度の高い造形で形状を最適化できるとし、機能面の向上と軽量化も実現できると解説する。

業務提携のイメージ(出典:ISC)
業務提携のイメージ(出典:ISC)

 WAAM3Dは、自社でWAAM装置を開発しており、WAAMのための素材も自社で開発しているという。宇宙産業のほかに石油やガス、鉱業などでも活用されていると説明する。

 WAAM3DのWAAM装置は、従来のアーク溶接機と多関節ロボットをベースとしており、理論上は造形する対象のワークサイズに制限がないという。WAAM技術では、造形パスの生成や造形条件の微調整、入熱のコントロールが大きな課題とされているが、WAAM3Dではこれらを補助するソフトウェア、各種センサーの開発に成功し、造形技術の可視化やフィードバック制御が可能になったと解説。WAAM3Dとの業務提携では、WAAM3Dの3DプリンターをISCが購入して、推進剤タンクを製造する。

 愛知産業は、技術商社として溶接や溶解、溶融といった分野の最先端技術を日本に紹介してきたと表現。金属積層造形の技術でも日本国内でいち早く取り組み、装置を販売するだけでなく、ジョブショップとして装置を使用して経験を重ねているという。(1)システム(製造装置)、(2)マテリアル(材料)、(3)デザイン――という金属積層造形の3要素を統合してトータルソリューションを提供している。

愛知産業での3Dプリンターによる製造の様子。今回の提携前にISCと愛知産業は機体の後部構造のモックアップを製造した(出典:ISC)
愛知産業での3Dプリンターによる製造の様子。今回の提携前にISCと愛知産業は機体の後部構造のモックアップを製造した(出典:ISC)

 ISCは、完全再使用型の単段式スペースプレーン(Single Stage To Orbit:SSTO)の開発に取り組んでいる。SSTOを実現するには機体の軽量化が不可欠だ。

 そこで、密度が小さく比推力が高い水素の使用を大気圏外に集中させ、大気圏内で不足する推力をメタンでカバーする、水素とメタン、酸素の3種類の推進剤を組み合わせる「トリプロペラント」方式の適用を試みている。トリプロペラント方式を採用すると、液体水素タンクの大きさを小さくできるため、機体の軽量化につながるという。

 ISCは、2023年12月にトリプロペラント方式での燃焼試験に成功。トリプロペラント方式の燃焼試験にあわせて、独自に開発した研究開発プラットフォーム「P4SD」の有効性も検証した。

 ウォーターフォール型開発では、工程ごとの縦割りや仕様変更の柔軟性欠如などから開発期間が長期化しやすい。こうした背景からISCは、アジャイル型で開発するためにP4SD(Platform for Space Development)を活用している。

P4SDのイメージ(出典:ISC)
P4SDのイメージ(出典:ISC)

 P4SDは、開発に関わる全ての過程をデータ化し、クラウド上に集約させた研究開発プラットフォーム。研究や設計はもちろん、試験結果もデータ化し、集約。その後の分析や改善など、開発に関わる全てを一元管理している。

 P4SDはクラウドサービス「Amazon Web Services」(AWS)に構築。開発の関係者全員が、いつでも、どこでも、同じ情報を得ることが可能になり、アジャイル型で開発できるとしている。

(左から)愛知産業 代表取締役社長 井上博貴氏、ISC 代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO) 畑田康二郎氏、WAAM3D CEO Filomeno Martina氏
(左から)愛知産業 代表取締役社長 井上博貴氏、ISC 代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO) 畑田康二郎氏、WAAM3D CEO Filomeno Martina氏

関連情報
ISCプレスリリース(PR TIMES)

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