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JAXAと日立造船、宇宙で全固体リチウムイオン電池の充放電を確認

2022.08.05 18:38

飯塚直

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 宇宙航空研究開発機構(JAXA)と日立造船(大阪市住之江区)は8月5日、国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」に設置した全固体リチウムイオン電池の実証実験を実施し、世界で初めて宇宙で充放電できたことを確認したと発表した。

 両者は、科学技術振興機構(JST)から受託した「イノベーションハブ構築支援事業」(太陽系フロンティア開拓による人類の生存圏・活動領域拡大に向けたオープンイノベーションハブ)で「全固体リチウムイオン二次電池の開発」を共同で行う契約を締結。2016年から2018年まで共同で進めてきた。

 その後も継続して研究を続けており、2021年2月に両者の間で、全固体リチウムイオン電池の実用化に向けた宇宙での実証実験に関する共同研究契約を締結。2022年2月に全固体リチウムイオン電池軌道上実証装置「Space As-Lib」をISSに打ち上げ、「きぼう」の船外実験プラットフォームに設置した。現在も軌道上実証実験を継続して実施している。

 全固体リチウムイオン電池は、-40~120℃という広い温度範囲で使用可能かつ、安全性が高く破裂発火のリスクが極めて小さいため、温度差の激しい真空で放射線に晒される宇宙環境で利用する設備の小型化や軽量化、低消費電力化に活用できるという。

 そのため、従来宇宙で使用している有機電解液のリチウムイオン電池では難しかった省スペース化が求められる小型機器への適用や、船外実験装置などでの使用が見込まれる。

Space AS-LiB(出典:JAXA)
Space AS-LiB(出典:JAXA)
(左から)Space AS-LiB構成とAS-LiB 140mAhセル(出典:JAXA)
(左から)Space AS-LiB構成とAS-LiB 140mAhセル(出典:JAXA)

 今回の実験は、2022年2月20日にISSに向けて打ち上げたSpace As-Libを「きぼう」の船外実験プラットフォームに設置された「船外小型ペイロード支援装置」(Small Payload Support Equipment:SPySE)に取り付け、宇宙環境で全固体リチウムイオン電池の充放電を実証。3月5日には、世界で初めて充放電が可能であることを確認した。JAXAでは、全固体リチウムイオン電池の搭載を通じてSPySEの機能も検証するという。

 SPySEは、「きぼう」の船外実験プラットフォームに設置されている「中型曝露実験アダプター(IVA-replaceable Small Exposed Experiment Platform:i-SEEP)」の利用の多様化や拡大を目指し、JAXAが開発を進めてきた実験インフラ。i-SEEPの装置搭載エリアの片方に取り付けて、最大8個の小型装置を相乗りできるインターフェースを提供する。

i-SEEP/SPySEの外観図と全固体リチウムイオン電池設置場所(出典:JAXA)
i-SEEP/SPySEの外観図と全固体リチウムイオン電池設置場所(出典:JAXA)

 今後の実証実験では、次ステップとして、宇宙環境下で同電池の特性などを評価する基本的充放電特性データと、真空や放射線、微小重力などの宇宙環境曝露部特有の条件による容量劣化推移の評価に必要なデータを取得する予定。

 将来的な全固体リチウムイオン電池の用途としては、月面に設置する観測機器や小型の探査機(ローバー)を想定、大容量化を実現後には、本格的な大型ローバーなどでの使用が期待できるという。

 地上での用途では、従来の電池では適用が難しかった高温・低温や真空環境下にある産業装置、高温滅菌を要する医療機器やその他各種機器への展開を検討している。

Space As-Libのモニタカメラ撮影画像(出典:JAXA)
Space As-Libのモニタカメラ撮影画像(出典:JAXA)

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