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日本の新興宇宙企業「将来宇宙輸送システム」、再使用ロケット「ASCA-1」発表–米国製エンジン採用
2024.04.04 16:49
将来宇宙輸送システムは4月4日、再使用型ロケット「ASCA-1」(アスカ・ワン)の開発を発表した。2028〜2029年頃の衛星打ち上げを目指すという。また、米国のロケットエンジン専業メーカーUrsa Major Technologiesの3Dプリント製エンジン「Hadley」(ハドレー)をASCA-1に搭載することも明かした。日米連携での再使用型ロケットの開発は初だ。
将来宇宙輸送システムとは
将来宇宙輸送システムは、再使用型ロケットの実用化をめざす日本の民間企業だ。4年半で最大140億円という文部科学省の「中小企業イノベーション創出推進事業」(SBIRフェーズ3)に採択された4つのロケット打ち上げ企業の1社で、残る3社はインターステラテクノロジズ、スペースワン、SPACE WALKERとなる。
同社の設立者で、代表取締役社長兼最高経営責任者(CEO)を務めるのは、経済産業省出身の畑田康二郎氏。内閣府へ出向時には宇宙活動法や宇宙産業ビジョンの策定にも携わった人物だ。
官僚時代には「どうやって日本に新しい産業を作るか考えていた」というが、「『法律やビジョンを作れば民間の宇宙ビジネスが花開く』ということではない。人に『やれよ』というくらいなら自分でやるしかない」という思いから同社を立ち上げた。
設立は2022年。東京に本社および開発拠点を、福島県南相馬市に支社を置く。従業員は直接雇用で43人、業務委託などを含めて70人ほど。主要株主はインキュベイトファンド、アニマルスピリッツ、電通ベンチャーズSGPとなる。
実は日本が先行していた「再使用型ロケット」に挑戦
将来宇宙輸送システムが取り組むのは、米Space Exploration Technologies(SpaceX)がすでに商用化している再使用型のロケットだ。
この再使用型ロケットは、日本でも宇宙航空研究開発機構(JAXA)が1998年に「再使用ロケット実験機」(Reusable Vehicle Testing:RVT)として開発に着手し、2007年まで計8回の離着陸実験を実施していた。「日本は世界に先駆けて再使用型ロケットの開発に挑戦した国」と畑田氏は語り、同実験に携わった人材を取り込むことで、再使用型ロケットの技術継承を図るという。
(編集部追記)日本の取り組みよりも前、1991年から1993年にかけて、米国で「DC-X」(デルタクリッパー)という単段式の垂直離着陸型ロケットが試験されている。
開発にあたってはアジャイル手法を導入。「失敗しないように慎重に開発するのではなく、小さく失敗しては賢く学習して、素早く再挑戦するというサイクルを高速で繰り返す」といい、こうした手法は再使用型ロケットの開発と相性が良いとも畑田氏は話す。
さらに、開発に関わる全ての過程をデータ化し、クラウド上に集約させる独自のプラットフォーム「P4SD」(Platform for Space Development)を構築。すでに実施済の燃焼試験に適用しているという。
再使用型ロケット「ASCA-1」とは–米国製エンジン採用
同社が2028〜2029年の衛星打ち上げをめざして開発しているのが「ASCA-1」だ。2段式で、第1段はSpaceXの「Falcon 9」ロケットのように垂直着陸での再使用をめざす。また、これに先駆ける形で、2024年9〜10月に小型離着陸実験機「ASCA-hopper」の実証試験を計画している。
ロケット開発で先行するインターステラテクノロジズやスペースワンと異なる点は、米国製の既成ロケットエンジンを採用する点だ。エンジンの自社開発にこだわらないことで、ロケット開発期間の短縮を図る。同社が提携した米Ursa Majorは、3Dプリント製ロケットエンジン「Hadley」を量産する専業メーカーで、すでに実績も有している。
畑田氏は「やりたいのは宇宙輸送サービスなので、それを加速する手段があれば提携する」と語り、さらにUrsa Major側にも将来宇宙輸送システムの飛行データを提供することで、お互いにウィンウィンの関係になれると強調した。
米国の輸出規制に対処
なお、米国は宇宙および衛星分野で厳格な輸出規制を敷いており、Ursa Major社のエンジンを日本に持ち込むことはできない。そこで、将来宇宙輸送システムでは米国法人の「Sirius Technologies」を設立し、当面は米国での打ち上げ実証を目指す。
日米両政府が宇宙開発協力に向けて技術保障協定(TSA)を締結し、米国製ロケットを日本で打ち上げられるようにするとの報道もあるが、「TSAが締結されてから動いても遅い」と畑田氏は語り、米国で先んじて実証する意義を強調した。
加えて、自社でもエンジン開発を並行して実施するという。2023年12月19日には水素・メタン・酸素の3種類の推進剤による「トリプロペラント方式」による燃焼試験を、北海道スペースポート(HOSPO)の滑走路で実施している。
2030年代には有人ロケットも
ASCA-1の開発後は、有人宇宙飛行に対応した「ASCA-2」の開発に取り組む。軌道上ステーションへの輸送にとどまらず、サブオービタル宇宙体験や、地球周回宇宙飛行、弾道飛行によって大陸間を超高速で輸送する高速二地点間輸送サービスの実現も狙う。
そして、2040年には、単段式(Single Stage To Orbit:SSTO)宇宙往還機(スペースプレーン)「ASCA-3」を開発する構想も明かした。地球周回軌道に50人程度を輸送できる能力を目指す。
内閣府「ロケット開発は国産だけが正解じゃない」
記者会見には、内閣府の宇宙開発戦略推進事務局で参事官を務める山口真吾氏も登壇。「ロケット開発は国産だけが正解ではなく、Ursa Majorとの連携によって、素早く良いものを作るのも1つの正解」と述べた。
続けて、4月10日に内閣総理大臣の岸田文雄氏が国賓待遇で訪米し、バイデン大統領と面会することにも触れ「宇宙も日米の1つの協力分野だ。ここで良い関係を民間企業レベルでも進めていただくと、面白い勝ち筋が見えてくるのではないか」とした。
一方の畑田氏は「(軍事分野とも紙一重な宇宙分野での米国企業との連携は)日米同盟があってこそできる。他のアジアの国ではこうはいかない」と述べ、日本の地政学的な利点も強調した。