解説

「スペースワン」とは何者か–-キヤノン電子や清水建設が独自ロケットで民間初の衛星打ち上げに挑む(更新)

2024.03.07 07:30

小口貴宏(編集部)

facebook X(旧Twitter) line

 日本で初めて民間企業単独での衛星打ち上げに挑む「スペースワン」とは何者か。同社の独自ロケット「カイロス」や射場「スペースポート紀伊」、そして同社に対する日本政府からの期待などについて解説する。

直近の動き

 2024年3月13日:スペースワンはカイロス初号機を打ち上げたが、5秒後に爆発した。機体自身が異常を検知したことによる自律破壊だ。第三者やスペースワン関係者への被害は発生していない。同社は原因を究明し迅速な打ち上げ再開に望む

 2024年3月9日:スペースワンは日本時間3月9日にカイロス初号機の打ち上げに挑んだが、警戒海域への船舶侵入により延期となった。新たな打ち上げ日時は3月13日午前11時1分12秒〜17分12秒だ。

スペースワンとは–いわば日本の大企業連合

 スペースワンは、キヤノン電子IHIエアロスペース清水建設、日本政策投資銀行の共同出資によって2018年7月に設立された、いわば日本の大企業連合だ。

(出典:スペースワン)

 JAXAとともに「イプシロン」ロケットなどを設計開発してきたIHIエアロスペース、電子製品の量産に長けるキヤノン電子、そしてインフラ建設に長ける清水建設のそれぞれの知見を、日本政策投資銀行が結節点としてまとめる形で発足した。現時点では紀陽銀行、K4 Ventures、太陽グループ、三菱UFJ銀行、アズマハウス、オークワも同社に出資している。

 スペースワンは、独自開発した小型ロケットの「カイロス」を用い、独自の射場から衛星を地球周回軌道へ打ち上げるサービスの実現を目指している。3月9日の打ち上げでは、内閣衛星情報センターから受注した「短期打ち上げ型小型衛星」の軌道投入をめざす。

内閣府から受注した「短期打上型小型衛星」の外観図(出典:内閣府)

独自ロケット「カイロス」と射場「スペースポート紀伊」

 カイロスは固体燃料の3段式で、これに加えて軌道投入精度を高めるための液体推進系キックステージ(PBS)を備える。ペイロードは地球低軌道(LEO)へ約250kg、太陽同期軌道(SSO)へ約150kgを投入可能。高さは約18m、全備重量は約23トン。LEOに1500kgを投入できる宇宙航空研究開発機構(JAXA)のロケット「イプシロンS」(高さ26m)よりもさらに小型だ。

独自ロケット「カイロス」
カイロスロケットの概要(出典:スペースワン)

 同社の専用射場「スペースポート紀伊」は、和歌山県串本町に立地している。射場内にはロケットの打上げ射点、組立棟、モーター保管庫、総合指令棟などがある。着工は2019年、運用開始は2021年だ。

スペースポート紀伊の概要(出典:スペースワン)

 ロケットの射場には「地元の理解と協力」「南側に陸地や島がない」「周囲に建物や人がいない」「工場からのアクセス性」の4条件が重要となる。串本町はこれらを満たしていたことから、2019年3月に射場予定地に選ばれた。清水建設が同年に着工し、2021年に運用を開始した。南方と東方が海に開けており、ロケットの能力を最大限引き出す経路でロケットを飛ばすことができる。

出典:スペースワン

政府からも期待大

 スペースワンの打ち上げに対しては国からの期待も大きい。JAXAで理事長を務める山川宏氏は「成功すれば日本は民間企業単独での衛星打ち上げに成功した数少ない国となる」と期待を示した。宇宙政策の担当大臣を務める高市早苗氏は「成功すれば日本の宇宙政策にとって第一歩」と述べた。

JAXAで理事長を務める山川宏氏

 日本のロケット打ち上げ能力は、米国や中国に大きく劣後しているのが現状だ。2023年のロケット打ち上げ回数は、米国の113回、中国の64回に対して日本はたった3回だった。

 こうした現状に危機感を抱く政府は、2030年代前半までに年間30回程度のロケット打ち上げ能力を国内で確保する目標を掲げている。この達成には基幹ロケットの「H3」だけでなく、スペースワンや同じく日本のロケット打ち上げベンチャーであるインターステラテクノロジズのロケットが重要となる。

海外でも民間ロケットが活発化

 なお、海外でもスタートアップによるロケットの開発が活発化している。すでに有人ロケットの打ち上げにも成功しているSpace Exploration Technologies(SpaceX)は例外的な規模としても、小型ロケットに絞れば米国のRocketLabはすでに宇宙への安定的な輸送サービスを確立している。

世界のスタートアップが開発・運用するロケットの一覧(出典:内閣府)
スペースワンのPR動画

(参考:日本政策投資銀行スペースワン内閣府串本町

Photo report

Related Articles