月のレゴリスを蓄熱材として利用--レゾナックとJAXAが共同で研究

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月のレゴリスを蓄熱材として利用–レゾナックとJAXAが共同で研究

2024.03.21 14:14

飯塚直

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 大手化学メーカーのレゾナック・ホールディングスは3月21日、月の表面を覆う細かい砂(レゴリス)を蓄熱材として利用するために宇宙航空研究開発機構(JAXA)と4月から共同で研究することを発表した。

 月では夜の気温がマイナス170度まで下がり、昼夜の気温差が激しい過酷な期間が約2週間ずつ続くため、有人活動には安定的にエネルギーを確保する必要がある。

 レゴリスは、宇宙風化作用で生成された主にガラス質の微小粒子であり、月面上に大量に存在する。レゴリスを蓄熱材として活用できれば、月面で効率的かつ低コストでエネルギーを確保できるようになる。

 しかし、粒子間の空隙は真空で熱が伝わらないため、レゴリス全体として熱伝導率と比熱(1gあたりの物質の温度を1度上げるのに必要な熱量)を大きくしたり、蓄熱したレゴリスから熱を取り出したりするシステムを構築したりする必要がある。

 レゴリスの表面にポリアミドイミドなどの樹脂層をコーティングし、これを締め固める手法である「レジンコーテッドサンド技術」を活用することで熱伝導率と比熱を向上できると着想。熱が輻射のみで伝わる真空の環境で約2週間ごとに昼夜の過酷な気温変化を繰り返す月面環境を想定し、熱シミュレーションを実施した。

 その結果、熱伝導率と比熱がともに向上し、月の赤道面ではレゴリス単体に比べ、コーティングした方が昼間の太陽熱を20倍以上蓄熱可能な見込みであるという結論を得た。

 熱の伝わり方は、「輻射(放射)」「伝導」「対流」の3つ。輻射は、物体が発する熱が電磁波となって伝わる現象。真空でも熱が伝わるのは輻射のみ。

樹脂とレゴリスの複合モデル(出典:レゾナック)
樹脂とレゴリスの複合モデル(出典:レゾナック)

 従来の研究では、レゴリスの蓄熱性を改善する手法として、レーザー溶融によるガラス固形化などが考えられてきたが、レーザー機器の運搬や溶融といった製造時に多大なエネルギーが必要であることが課題となっていた。

 今回提案した手法は、月面でスクリュー混練のみでコーティングが可能であり、実現できれば圧倒的に低エネルギーで大量製造が期待できる。同社は、計算情報科学研究センターで高いシミュレーション技術を保有しているため、今回の蓄熱効果の検証も短期間で実現したという。

 今後、JAXAとの共同研究に向け、研究計画や体制などを調整した後、レゴリスを蓄熱材として成立させるための検討を開始。コストと性能のバランスの取れた月面用蓄熱エネルギーシステムを検証する予定。共同研究期間は最長1年を予定している。

樹脂でコーティングし、締め固めたレゴリスを構造X線CTで分析した断面(出典:レゾナック)
樹脂でコーティングし、締め固めたレゴリスを構造X線CTで分析した断面(出典:レゾナック)

 JAXAは、研究提案のひとつとして、レゴリスを蓄熱材として活用する「レゴリス物理蓄熱エネルギーシステム」を募集していた。提案したのは同社内の自主的な活動グループ。同社のパーパスである「化学の力で社会を変える」を実践するため、従業員が自ら手を挙げて活動するコミュニティー「REsonac BLUe Creators(REBLUC)」が2022年に設立。その中で、宇宙関連材料を通して社会に貢献したいメンバーが集まり、プロジェクトを推進している。

 2023年1月に昭和電工と昭和電工マテリアルズが統合して、持ち株会社のレゾナック・ホールディングスとなった。傘下に事業会社のレゾナックを抱える。

関連情報
レゾナック・ホールディングスプレスリリース

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