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アストロスケール実証衛星「ADRAS-J」、デブリへの接近を開始–世界初の試み
2024.02.23 03:00
宇宙ゴミ(スペースデブリ)の状況を調べるために打ち上げたアストロスケールの商業デブリ除去実証衛星(Active Debris Removal by Astroscale-Japan:ADRAS-J)が初期運用を終え、日本時間2月22日午後8時頃、対象となるデブリへの接近を開始した。
ミッションの対象となるデブリは、2009年に打ち上げられたロケット「H-IIA」の第2段であり、全長は約11m、直径は約4m、重量は約3t。
対象デブリに接近して、近傍運用(Rendezvous and Proximity Operations:RPO)技術を実証し、長期間放置された対象の運動や損傷、劣化といった状況を撮影する。ADRAS-Jは、実際のデブリに安全に接近して、デブリの状況を明確に調査する。世界初の試みになる。
ADRAS-Jはまず、自身に搭載するセンサーでの測位情報と地上からの観測値などの情報をもとにした“絶対航法”で推進器(スラスター)でデブリに接近する。その後数キロメートルまでは可視光カメラで接近、赤外線カメラに切り替えて数百メートルまで接近する。その後は、レーザーで距離や形などを計測するLiDARで近付く(相対航法)。
可視光カメラから赤外線カメラ、LiDARといったセンサーをシームレスに切り替える必要がある。こうした流れも難易度の高いものであり、同社は「高速で移動しながら望遠鏡、双眼鏡、虫眼鏡を切り替える」イメージと説明している。
運用が終了した衛星などのデブリは、自らの位置情報を発信しない“非協力物体”であり、外形や寸法などの情報が限られ、位置データや姿勢制御などの協力が得られない。そのため、劣化状況や回転など実際の軌道上での衛星の状態を把握しながら安全にRPOを実施することは、デブリ除去を含む“軌道上サービス”の重要な基盤になる。
ADRAS-Jは、相対的に自らの位置を制御するための斜め向きの8本のスラスターと、効率的に大きな推力を生んで大きく軌道を変更するための真っ直ぐな4本のスラスターを使い分けることでダイナミックかつ繊細な動きが可能という。本体サイズは約830×810×1200mm(太陽光パネル展開時の幅は約3700mm)。重量は約150kg。
アストロスケールは、デブリの除去などの技術実証を目指す宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「商業デブリ除去実証(Commercial Removal of Debris Demonstration:CRD2)」プロジェクトのフェーズ1の契約相手方として選定され、ADRAS-Jを開発している。
今回のミッションが成功すれば、実際にデブリを捕獲して大気圏に再突入させるCRD2のフェーズ2実施の足がかりとなる。
同社は、デブリ除去技術実証衛星「ELSA-d」(End-of-Life Services by Astroscale – demonstration)で摸擬デブリとの距離を1700kmから160mに縮めていることに成功している。
アストロスケールは、デブリ除去を含む軌道上サービスに取り組むアストロスケールホールディングスの子会社。ADRAS-Jは2月18日午後11時52分にニュージーランドのマヒア半島からRocket Labの「Electron」ロケットで打ち上げられた。