ニュース

QPS研究所、小型SAR衛星2機を2022年度に打ち上げ–イプシロン初の商業打ち上げ

2022.04.20 14:43

鈴木悠斗

facebook X(旧Twitter) line

 小型の合成開口レーダー(SAR)衛星を開発、運用するQPS研究所(福岡市中央区)は4月19日、IHIエアロスペース(IA、東京都江東区)と2022年度打ち上げ予定のロケット「イプシロン」6号機で小型SAR衛星「QPS-SAR」3号機、4号機の打ち上げを委託する契約を締結した。イプシロンでの民間衛星の商業打ち上げは初となる。

 衛星は、QPS研究所が九州北部を中心とした全国25社のパートナー企業と一緒に開発、製造した。QPS研究所は今後、毎年複数の小型SAR衛星を打ち上げて、2025年以降を目標に36機の衛星コンステレーションを構築して、地球のほぼどこでも任意の場所を平均10分間隔という準リアルタイムでの地上観測データサービスの提供を目指すとしている。

 QPS研究所は収納性が高く、10kgと軽量でありながら大型の展開式アンテナを開発。そのアンテナで強い電波を出せるようになり、従来のSAR衛星の20分の1の質量、100分の1のコストとなるQPS-SARを開発した。

 現在は1号機「イザナギ」と2号機「イザナミ」の2機を打ち上げ、運用している。2021年5月にはイザナミによる70cm分解能という民間の小型SAR衛星として日本で最高精細の画像取得に成功したとしている。3号機と4号機は以下のような改良を施している。

  • 太陽電池パネル、バッテリーを追加し、使用できる電力量を増やすことで、さらに精細な観測データをより多く取得できるようになる
  • JAXAとアルウェットテクノロジー(東京都三鷹市)が共同で開発した「軌道上画像化装置」を搭載することで、SAR観測データを軌道上の衛星内で処理し、衛星からのダウンリンク量を大幅に圧縮できるようになり、即応性の高い観測ニーズに応えられるようになることが期待される
  • 3号機以降から36機コンステレーションを構築するため、軌道制御用のスラスターを搭載することで“干渉解析”ニーズへの対応も期待される(干渉解析=時間差で同じ場所から観測したデータの差を取ることで地表の変位、例えば、地面がどれだけ動いたかを測定すること)
(左から)IA 取締役 石川智孝氏、IA 取締役 永山隆司氏、IA 代表取締役社長 並木文春氏、QPS研究所 代表取締役社長最高経営責任者(CEO ) 大西俊輔氏、QPS研究所 取締役 八坂哲雄氏(九州大学名誉教授)、QPS研究所 取締役 松本崇良氏
(左から)IA 取締役 石川智孝氏、IA 取締役 永山隆司氏、IA 代表取締役社長 並木文春氏、QPS研究所 代表取締役社長最高経営責任者(CEO ) 大西俊輔氏、QPS研究所 取締役 八坂哲雄氏(九州大学名誉教授)、QPS研究所 取締役 松本崇良氏

 QPS研究所は、九州大学名誉教授の八坂哲雄氏、同大教授だった櫻井晃氏、ロケット開発者の舩越国弘氏らが2000年に創業した宇宙開発ベンチャー企業。「ロケットの射場である種子島や内之浦という素晴らしいインフラが九州にはありながら、宇宙産業がなかったことから、九州域に宇宙産業を根付かせたい」(八坂氏)との考えから設立され、九州の各企業の持つ技術を宇宙産業に生かすために、さまざまな企業が参加している。

 今回の打ち上げについて、八坂氏は「初のイプシロンロケットでの商業衛星の打ち上げで、創業当初から考えていた、九州で製造した衛星を九州から打ち上げるという20年越しの想いが実現することは誠に感慨深く、そのような機会を頂けたIHIエアロスペース様に感謝申し上げたい」とコメントしている。

 イプシロンは、ペンシルロケットを起源に60年以上にわたり技術を蓄積してきた固体燃料ロケット。宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発し、IAが機体システムを設計、製造する。これまで5機の打ち上げすべてが成功している。

 JAXAとIAは現在、現行イプシロンの後継となる「イプシロンS」ロケットを開発中。低軌道(LEO)に1400kg以上、太陽同期軌道(SSO)に600kg以上の打ち上げ能力を目標としており、実証機の打ち上げ後に、IAに衛星打ち上げサービスが民間移管される計画。IAは移管後の打ち上げ輸送サービス開始に向けて準備を進めているという。

Related Articles