宇宙ステーションのファイルを効率的に地上にダウンロードする技術を開発

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宇宙ステーションのファイルを効率的に地上にダウンロードする技術を実証

2023.06.05 08:00

飯塚直

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 有人宇宙システム(JAMSS)は6月2日、同社が開発した「自律的ファイルダンプ(Automated File Dump)」システムの技術を実証したと発表した。米Axiom SpaceAmazon Web Services(AWS)が協力した。

 JAMSSは、1990年創立から国際宇宙ステーション(ISS)の日本実験棟「きぼう」の運用利用を支援。その経験をもとに、将来の地球低軌道(LEO)の商業化、市場拡大への貢献を目指している。

 その取り組みのひとつとして、JAMSSは自律的ファイルダンプを開発。自律的ファイルダンプの技術実証を4月19~21日にISSに設置されているエッジ端末「AWS Snowcone」で実施した。自律的ファイルダンプは、軌道上のストレージに保存されたファイルをスケジュールに基づいて自律的に地上にダウンリンクするためのシステム。

 「きぼう」では現在、さまざまな実験や宇宙飛行士による活動が行われている。そこで得られたデータは、米航空宇宙局(NASA)などが運営する「追跡・データ中継衛星(Tracking and Data Relay Satellite:TDRS)」を経由して地上へとダウンリンクされている。

 LEOでは今後、民間企業が運営する商業宇宙ステーションの運用が期待されている。その際に、どのような衛星通信システムが採用されるのか明らかになっていないが、JAMSSは「各社が通信サービスを調達して利用者へ提供する」か「各社と契約した衛星通信会社が直接サービスを提供する」ようになると想定。

 そのコストは、利用者負担になると見込まれており、利用者のニーズに応じた通信サービスを提供することが必要になると考えているという。

 JAMSSが開発した自律的ファイルダンプは、所定のスケジュールに沿って、利用者ごとに必要な時間帯のみ通信帯域を割り当てられるのが特徴。複数の通信回線が有る場合は、宛先を指定する機能も備え、将来的に利用者の要求に応じた通信サービスを構築できるという。

 大容量の実験データや映像ファイルは、軌道上のファイルサーバーへと一時的に保管された上で、後からまとめてダンプされる。しかし、自律的ファイルダンプは、ファイル名を含めディレクトリ構造を維持した状態で圧縮、暗号化して伝送が可能。そのため、利用者は軌道上保管されたファイルが、地上のファイルサーバーへ再現されたように利用できるという。

 ダウンリンクの際は、通信状況に応じてパケットの欠損が生じるほか、TDRSのように複数の衛星を切り替えながら通信する場合は「ショートハンドオーバー」と呼ばれる数十秒間通信が途絶える時間帯が発生することがある。

 自律的ファイルダンプは、欠損部分を自動で識別し、必要な部分のみを再送、補完する仕組みを搭載。ハッシュ値の一致も自動で確認されるため、利用者の手間がなく、運用の効率化につなげられるという。

自律的ファイルダンプの通信イメージ(出典:JAMSS)
自律的ファイルダンプの通信イメージ(出典:JAMSS)

 今回の軌道上実証では、自律的ファイルダンプのソフトウェアをISSに設置されているAWS Snowcone上の「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)インスタンス(仮想サーバー)に展開して実行した。

 そのうえで、ファイルサーバーに見立て、ユーザーあたり合計約1GBのファイルを3ユーザー分作成し、地上側の端末へと順次伝送した。

 結果として、途中データ欠損に伴う自動再送も経ながらも、指定したスケジュールに従い、与えられた通信帯域(5Mbps)内で、全ファイルを地上側の端末で再現に成功したという。

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