超新星爆発の観測から宇宙の膨張速度を精密に測定--1964年提唱の手法で初実現

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超新星爆発の観測から宇宙の膨張速度を精密に測定–1964年提唱の手法で初実現

2023.05.12 18:21

飯塚直

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 千葉大学は5月12日、千葉大学先進科学センターの国際共同研究チームが、宇宙の膨張速度を表す宇宙論パラメータである「ハッブル定数」を精密に測定したと発表した。

 ハッブル定数は、現在の宇宙の膨張速度を表すパラメータとして、遠方までの距離や宇宙の年齢を決める最も重要な宇宙論パラメータとなっている。

 しかし、ハッブル定数の測定が精密化するにつれて、異なる手法による測定値の食い違いが顕在化しているという。

 具体的には、宇宙背景放射の測定で低めのハッブル定数の値(およそ67km/s/Mpc)が得られている一方、近傍の銀河までの直接的な距離測定によって高めのハッブル定数の値(およそ74km/s/Mpc)が得られており、有意に異なっている(1Mpc=100万パーセク=約326万光年)。

 宇宙の標準理論が正しければ、これらの値は一致するはずだが、食い違いが生じており、宇宙の標準理論の綻びを示唆する観測として、大きな注目を集めている。ただし、これらの測定で誤差を過小評価している可能性も指摘されており、さらに異なる観測による検証が待たれている。

 検証に有用な新しいハッブル定数測定の手法として、超新星爆発の重力レンズ効果による到達時間の差を用いた手法が、Sjur Refsdal氏によって1964年に提唱されている。

 遠方の超新星爆発は、ある確率で重力レンズ効果によって複数に分裂して観測される。それぞれの像は、異なる経路を通るため異なる時刻に観測可能。従って、超新星爆発を観測する時、重力レンズ効果によって、ある時間差で複数回観測できることがある。

 この到達時間差は、宇宙の大きさ、すなわちハッブル定数に依存するため、時間差の観測からハッブル定数の測定が可能。しかし、50年以上前に提唱されていた、この手法は、超新星爆発の重力レンズが最近発見され始めたこともあり、これまでほとんど応用例がなかった。

 超新星爆発の重力レンズ効果による到達時間の遅れは、2014年に現ミネソタ大学のPatrick Kelly氏らのチームにより、しし座の方向の55億光年先の銀河団「MACSJ1149.5+2223」の背後の95億光年離れた超新星爆発の重力レンズの発見により初めて観測されている。なお、同超新星爆発は、Refsdal氏にちなんで「レフスダール」と名付けられた。

 今回、ミネソタ大学准教授のPatrick Kelly氏や千葉大学教授の大栗真宗氏らを中心とする国際共同研究チームは、重力レンズ超新星爆発レフスダールの時間の遅れの詳細解析からハッブル定数を測定した。

 同解析における鍵となったのは、レフスダールの5番目の像の再出現になるという。

 2014年にレフスダールが発見された時点では、1カ月以下の短い時間差の4つの複数像のみが発見されていた。その直後に、大栗氏を含む複数の研究グループが、5番目の像の再出現を予言。

 再出現時期の予測は、半年から数年と大きくばらついていたが、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope:JWST)の追観測から最初の像の出現から1年後の2015年に5番目の像の再出現を観測。この結果、大栗氏の予言が最も正確に再出現の時期を予測していたことが明らかになったという。

 研究チームは、5番目の像の発見後もモニター観測を続け、超新星像の光度曲線を詳細に測定。人為的なバイアスを避け、ハッブル定数を精密かつ正確に測定するため、研究チームは測定した時間の遅れの値を伏せて解析し、質量密度モデルも5番目の像の前に決定したものを使用する「ブラインド解析」と呼ばれる手法を採用した。

 解析の結果、最終的に低めの値を支持するハッブル定数の値(64.8km/s/Mpc ※誤差+4.4~-4.3)となった。誤差を含めると、今回測定した値は60.5km/s/Mpc~69.2km/s/Mpcとなり、宇宙背景放射から推定されたハッブル定数に近い値(およそ67km/s/Mpc)に近い値となっている。

(左から)2014年に初めて観測された超新星爆発「レフスダール」 、再出現した「レフスダール」の5番目の重力レンズ複数像の検出(出典:千葉大学)
(左から)2014年に初めて観測された超新星爆発「レフスダール」 、再出現した「レフスダール」の5番目の重力レンズ複数像の検出(出典:千葉大学)

 今回の研究成果は、50年以上前に提唱されていたものの、まだ一度も実現していなかった、超新星爆発の重力レンズの時間の遅れの観測から精密なハッブル定数が得られた最初の例になるという。

 今後もJWSTの銀河団観測や2024年に観測開始予定のルービン天文台の広天域モニター観測により、重力レンズ超新星が数多く発見され、超新星爆発の重力レンズ時間の遅れを用いたハッブル定数の測定例も急速に増えていくと期待されているという。

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