「HAKUTO-R」の月面着陸が成功しなかった理由は?--ispaceが会見で説明

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「HAKUTO-R」の月面着陸が成功しなかった理由は?–ispaceが会見で説明

2023.04.26 17:08

田中好伸(編集部)

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 着陸シーケンスを構成する6つの段階は(1)月周回軌道から楕円軌道への投入(De-Orbit Insertion:DOI)、(2)高度を徐々に落として、高度20~25kmまで主推進系は使わずに、姿勢制御用の推進系(Reaction Control System:RCS)で姿勢を制御する“クルーズランディング”、(3)主推進系での減速を制御する“ブレイキングバーン”、(4)減速を制御しながらランダーの姿勢を月面に対して垂直にする“ブレイキングバーン&ピッチアップ”、(5)月面に対して垂直な姿勢で主推進系のアシストスラスタだけで降下する“最終降下”、(6)一定の速度で月面に近づき、着陸脚で衝撃を吸収して、ランダーを安定させる“最終着陸”――となっている。それぞれの時速、高度、時間は以下の通り。

(1)DOI=時速5800km、高度100km、着陸67分前~66分前
(2)クルーズランディング=時速6000km、高度100km→25km、着陸66分前~13分前
(3)ブレイキングバーン=時速6000km→380km、高度25km→3km、着陸13分前~2分前
(4)ブレイキングバーン&ピッチアップ=時速380km→120km、高度3km→1km、着陸2分前~1分前
(5)最終降下=時速120km→17km、高度1km→20m、着陸1分前~20秒前
(6)最終着陸=時速17km→2.6km、高度20m→0m、着陸20秒前~0秒

 着陸失敗の原因は、(5)以降に起きたと推測されている。

ランダーのペーパークラフトで説明するispace CTO 氏家亮氏
ランダーのペーパークラフトで説明するispace CTO 氏家亮氏

 ispace 最高技術責任者(CTO) 氏家亮氏の説明によると、高度を示すデータと実際のランダーの高度が違っていたとみられる。示されるデータでは高度がマイナス(つまり月面の地下)になっても、ランダーが着陸したことが検知されずに、ランダーはアシストスラスタを噴射し続けたままとみられる。噴射し続けたことで、搭載されていたアシストスラスタの推進剤がなくなってしまい、ランダーは自由落下して月面にハードランディングしてしまったという(いわば、ランダーは月に墜落してしまったとも言える)。

 ランダーがどの程度の高度にあったのか、高度を示すデータだけが間違っていたのか、詳細については氏家氏は「今後の解析を待ちたい」としていた(氏家氏は「速度のデータにも原因があるかもしれない」との見方も示した)。

 着陸できなかったことは残念だが、代表取締役で最高経営責任者(CEO)の袴田武史氏は、「サクセス8までで多くのデータを得られた。ミッション1は有意義なミッション」と成果を強調。「これらのデータを獲得できたのは世界でもわれわれだけ」と解説した。

 「ミッション1では、地球では得られないデータが取れた。今後のシミュレーションのベースとなるものであり、今後のミッションの精度を上げられる」(袴田氏)

 HAKUTO-Rは2024年にミッション2、2025年にミッション3が予定されている。ミッション2のランダーはミッション1と同型のものが搭載される予定だ。ミッション1は、ランダーを活用した月面輸送サービスの事業モデルを実証、高度化することを狙っている。ispaceは、今後のミッション2とミッション3に、ミッション1のサクセス8までに得られたデータを生かしていくことを強調している。

ランダーに搭載されたカメラから撮影した地球。地球の黒い部分は月食(出典:ispace)
ランダーに搭載されたカメラから撮影した地球。地球の黒い部分は月食(出典:ispace)

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