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本物の月面探査機、原寸大で玩具化–タカラトミーの「SORA-Q」に野口飛行士も感激
2023.04.17 10:54
タカラトミーは4月13日、宇宙航空研究開発機構(JAXA)などと共同開発した変形型月面ロボット「SORA-Q(ソラキュー)」を、自宅で遊べる玩具として1/1サイズで商品化した「SORA-Q Flagship Model」を発表した。
月面で動く「SORA-Q」と同じく、変形や前後左右の操縦が楽しめ、搭載カメラで写真も撮影できる。アプリ内には、JAXAが所有する月の画像を用いて作られたARの世界で、指令されたミッションを実行するといった、月面探査を疑似体験できるモードも用意される。
会見には、タカラトミー キャラクタービジネス本部 執行役員高原文彦氏や、JAXAのエンジニアで、変形型月面ロボットの開発を担当した平野大地氏らが登壇した。
また、宇宙飛行士の野口聡一氏、天体・宇宙愛好家として知られる篠原ともえ氏が、操縦体験やトークセッションを実施した。司会は宇宙キャスターの榎本優美氏が務めた。
SORA-Qが彩る「月面ロボット元年」
「SORA-Q」は、タカラトミーがJAXA、ソニーグループ、同志社大学と共同開発した、変形型月面探査ロボットだ。2015年のJAXA「宇宙探査イノベーションハブ」第1回研究提案募集(RFP)に、タカラトミーが応募したことがきっかけで、2016年から共同研究が始まった。2019年にはソニーグループ、2021年には同志社大学が参画した。
タカラトミーの高原文彦氏は、「玩具の技術が宇宙産業にどう貢献できるかがスタートだった」と企画開発の6年間を振り返る。
「車からロボットに変形する『トランスフォーマー』などで培った変形ギミックや小型軽量化のノウハウが、この小さな玩具に詰まっている。SORA-Qを通じて、子どもたちに宇宙を身近に感じてもらいたい」(高原氏)
JAXAのエンジニアで変形型月面ロボットの研究開発に携わる平野大地氏は、「SORA-Qは、非宇宙産業の民間企業との共同研究をきっかけに開発された非常にユニークな月面探査のロボットだ」と話す。
「SORA-Qは2023年度、2回の月面活動を予定している。1回目の着陸は(ispaceの着陸船で)4月末頃。2回目は、8月以降の打ち上げを予定している」(平野氏)
ispaceの着陸船は4月26日の月面着陸を予定しているが、これが予定通りにいけば、民間企業の着陸船が月に降り立つのは世界初。そして、SORA-Qが日本初の月面ロボットになるという。
まさに「月面ロボ元年」とも言える2023年、そのSORA-Qの玩具版となるSORA-Q Flagship Modelは9月2日に発売される。なお、予約は4月13日から受け付けている。また、マンガ宇宙兄弟とコラボしたスペシャルモデル「SORA-Q Flagship Model-宇宙兄弟 EDITION-」も300台限定で発売される。
平野氏と共に登場した篠原ともえ氏は、「私にとって宇宙はインスピレーションの源。今日も、自分で描いたイラストをドレスに仕立てて着てきた」と明かし「月に2回も行くなんて凄い。本当にワクワクするミッションでぜひ注目したい」と、宇宙愛を炸裂させた。
変形型月面ロボットSORA-Q「2つのミッション」とは
続いて、平野氏が変形型月面ロボットSORA-Qの特徴と、2つのミッションなどを説明した。
SORA-Qは、過酷な月面環境で稼働できる超小型超軽量のセンシング用ローバーだ。月着陸船搭載時はコンパクトに収納されており、月面に降り立った後に、走行用の形状に変形する。これによって、輸送時の容積を削減してコストを低減できる。
SORA-Qのミッションは2つある。1つ目は月面でのデータ取得(Lunar surface data Acquisition Mission for Pressurized rover Exploration:LAMPE)だ。この「LAMPE」ミッションでは、ispaceの月着陸船でSORA-Qを月面に輸送し、着陸後遠隔操作で展開、月面を走行し画像データの取得などを実施する。
SORA-Qが取得した画像データなどは月着陸船経由で地上に伝送される。これらのデータを用いて、レゴリスと呼ばれる月の砂の付着を防ぐコーティングの有用性の確認や、現在開発中の有人与圧ローバーの走行性能、そして自己位置推定アルゴリズムの評価などを実施するという。
2つ目のミッションは、2023年8月以降に打ち上げが予定されている、小型月着陸実証機「Smart Lander for Investigating Moon」(SLIM)を活用したデータ取得と地上への伝送だ。この「SLIM」ミッションは、LEV-2が取得したデータをLEV-1に無線で送信して、LEV1が地上に転送するという仕組みになっており、LEV-2の役割をSORA-Qが担う。
月面における超小型ロボットの探索技術を実証することに加えて、SLIMの着陸状況や着陸地点周辺に関する情報の取得を目指す。また、取得したデータに応じて、ロボット自身がその後の行動を決定する自律制御機能も搭載されるという。
2つのミッションを聞いた篠原氏は、「本当に楽しみ。LAMPEミッションロゴも、しっかり作られていて、JAXAさん、タカラトミーさんの愛情、そして力のこもった大きいプロジェクトなんだなということがすごく伝わり、勇気をもらえる」と話した。
同じく壇上にいた高原氏も「自分自身も宇宙が大好きで、宇宙に憧れていた子どもだった。いまの子どもたちにも、SORA-Qを通じて宇宙への憧れや夢を叶えていくきっかけを作れればとワクワクしている」と笑顔で応じた。
平野氏は、「宇宙探査イノベーションハブは企業や大学、研究機関など、特にこれまで宇宙と関わってこなかった産学官の共同研究を進めており、その成果は宇宙技術として使われるだけでなく、民間企業の事業にも活用いただくことを目指している。タカラトミーさんのSORA-Q Flagship Modelは、まさにその好事例だ」と付け加えた。
また、エンジニアとして興味深かったのは部品点数の少なさだという。「信頼性を担保するため、可能な限り部品点数は抑えたいが、そうすると部品1つ1つの形状が複雑になり、製作のハードルが上がる。しかし、例えば車輪なども半円で中がくり抜かれている複雑な形状だったが、タカラトミーさんの技術を使って、1つのパーツとして出来上がっているところは凄いと思った」と明かした。
野口氏と篠原氏さん、初めての操縦体験
SORA-Q Flagship Modelの商品説明は、タカラトミーでアライアンスキャラクター事業部部長を務める赤木謙介氏が行なった。SORA-Qの紹介動画を流した後、SORA-Q Flagship Modelの特徴をおさらいすると、篠原氏は「すごい…」と小さな囁きを漏らしていた。
篠原氏が、「自分で操作できるという、この贅沢な体験をできるのが本当に楽しみ。VTRを見て、宇宙にリスペクトを持って物作りをされていると、強く感じた。ぜひとも私も早く体験してみたい!」と声を弾ませると、もう1人のスペシャルゲスト、宇宙飛行士の野口聡一氏がSORA-Q Flagship Modelを持って登場。
野口氏は、司会の榎本氏から実機を手にした感触を尋ねられると「WBC(World Baseball Classic)公認球 公認球と同じくらいだから、ついつい投げたくなるよね」と笑いを誘いつつ、宇宙飛行士ならではの視点でコメントした。
「金属を使っているので、宇宙ステーションやスペースシャトルにある機械の手触りと、持った感じが非常に似ている。宇宙飛行士が触るものは、触ったとき手足を切ったりしないように、いわゆる面取りされているが、そういう手触りが宇宙製品にすごく近くて、とてもリアルだなと感じた」(野口氏)
なお、タカラトミーによると、室内で遊ぶ専用で、投げることは推奨していない。
野口氏は操縦体験を披露する前に「壇上から落ちたら、拾った人のものになるんで(笑)」と場を和ませたが、操縦後には「このロボットはレゴリスという月面の砂の上で走るように作られているので、こういう表面は極めて苦手なはずなのに、ちゃんと動くのはすごいな」と感心していた。
続いて篠原氏もお待ちかねの操縦体験。「ああ動いた〜! わくわくします。このSORA-Qが月に行って、同じアイテムが手に入るなんて、写真も撮れるし、心ときめきますね」と、心から楽しんでいる様子だった。
そして、篠原氏は「私も空を好きになったのは、双眼鏡で星を眺めたのがきっかけだった。このSORA-Qを手にした子どもたちや皆さんも、月と心がつながるような気持ちに、きっとなると思う。そういう気持ちをプレゼントしてらっしゃるタカラトミーさん、JAXAさんのご尽力も、本当に素晴らしくて感動している」と話した。
野口氏も「実は他の宇宙飛行士からも、やっぱり日本ってこういう面白いものを作るよね、と言われた。コンパクトにまとめ上げる力は日本のエンジニアの力だなと感じている」と称えた。
野口飛行士「自宅で月面パイロットになれる」
「SORA-Q Flagship Modelは、宇宙を見て楽しむだけではなくて、実際に月面で動いている世界初の変形型ロボットを自分の家で楽しめる。だからこそ『自分と関わっているプロジェクトなんだ』と思えるのでは」と話したのは野口飛行士だ。
隣の部屋にSORA-Qを置いて、画面を見ながら遠隔操作すれば、それはもう「月面パイロット」だという。
「1m先のものを動かすのと、37万km離れた月面のものを動かすのは原理的には同じ。SORA-Q Flagship Modelで遊びながら、自分が将来宇宙に行って、遠くの天体でこういうローバーや宇宙船を遠隔操縦しているような気持ちになってくれたらいいなと思う。」(野口氏)
「憧れを持つって凄く心にいいと思っている。宇宙への挑戦であるSORA-Qからパワーと、遊び心をたくさん得てほしい」(篠原氏)
質疑応答で、野口氏に「次にタカラトミーさんに作ってほしいものは?」と尋ねると「ぜひ本物のロケットと宇宙船を作って火星に」と話していた。
なお、SLIM打ち上げ時には、発射台がある種子島へのパッケージツアーやライブビューイング、「SORA-Q 公式サポーター認定証」発行などの大型キャンペーンを予定しているという。打ち上げ時期の確定にあわせて発表する予定だ。