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航空宇宙防衛での開発速度を高めるアンシス「デジタルエンジニアリング」の勘所
2023.04.03 08:00
アンシス・ジャパンは3月15日、防衛・セキュリティ総合展示会「DSEI Japan」の開催にあわせて、航空宇宙・防衛産業のデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する開発課題と新たな開発手法の動向を説明した。
米本社Ansys 航空宇宙・防衛部門 最高技術責任者(CTO)Steve Bleymaier氏は「軍事兵器をより早く獲得し、シフトレフトでテストとモデルベースのVモデル開発を連続体にさせ、デジタルアクイジションの加速、パフォーマンスの向上を実現する答えは、デジタルエンジニアリングによるDX」であると主張した。
米国防総省も重要性に気付く
ロシアのウクライナ軍事侵攻や中国、北朝鮮の示威発言・活動と日本が対応すべき課題は多い。
防衛省による防衛力整備計画の推進は、自衛隊に対する思想や信条が異なるため、決定的なものはないが、従来の中国や北朝鮮の二正面対応にロシアを加えた三正面対応を鑑みれば致し方ないとみる向きもある。
政府の内閣官房 国家安全保障局も憲法で認められた「必要最小限度」の自衛力として、敵地での軍事目標への反撃が可能だと認識している。2027年度までに国内総生産の2%にあたる43兆円を防衛費として支出することを目標としている、
米空軍准将まで勤め上げた後、Ansysに参加したBleymaier氏は「日本は島嶼(とうしょ)防衛に取り組んでいるが、米国が経験した学びを活用できる。すぐに利用できる技術があり、デジタルエンジニアリングがスピードを与えてくれる」と、今ある技術の活用と迅速な対応がカギを握っていると説明した。
そもそもAnsysは、物理的な試作品を減らすためのモデリング&シミュレーション(M&S)や、協力関係や連携にM&Sを活用するデジタルエンジニアリングを重視し、一連のライフサイクル構築をDXと称している。その上で目標を「デジタルエンジニアリングのゴールはスピードとアジリティ(敏捷性)。DXは完全実装で挑戦する」(Bleymaier氏)と自社の姿勢を説明した。
その一例として、Bleymaier氏は米空軍の戦闘機「F-35」を取り上げている。
Bleymaier氏は「F-35は構想から現場運用までに27年を要した。理由は新技術の統合が進まず、本体重量は2000ポンド(約907kg)増量し、コストオーバーランしている。同じ尺度で見た際の中国は7年未満だ」と、Lockheed Martinを中心とする複合軍事産業の対応もさることながら、2016年にF-35を配備した米空軍の資料を提示して、「予算執行や新興技術に対応する柔軟性を欠いていた」と予算問題を指摘した。
冒頭で述べたように日本の軍事力強化は喫緊の課題だが、すでに米国は「複雑なシステムを迅速に実装配備して対応する必要性を強く認識している。ここ4~5年で米国防総省もデジタルエンジニアリングの変化が必要だと気付き、2018年にはデジタルエンジニアリング戦略を発表した」(Bleymaier氏)
同様の取り組みを日本で早期実現するには、デジタルエンジニアリングが重要だと強調する。
例えば、人材面では深い専門知識を持ちながら組織内でサイロ化し、デザイン変更の背景となる文脈が欠如していると指摘した。技術面も独自仕様やベンダーロックインによって標準的な技術構造の構築に至らず、ITの近代化が遅れているからこそ、日本も防衛産業への投資に取り組むべきだという。
例えば、Ansysは「結合全ドメイン指揮統制(Joint All-Domain Command and Control:JADC2)」をはじめとする軍事系ソリューションを多数手掛けている。日本法人エリアバイスプレジデント カントリーマネージャー 大谷修造氏は「ミッションデザインを中心としたITツール。(多くのデータに基づいて)ミッション全体のアニメーションとして視聴できる」と説明した。