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「世界初」のアンテナで地中を透視–JAXA、マイクロ波観測の革新的技術を発表

2022.12.16 10:44

小口貴宏(編集部)

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 宇宙航空研究開発機構(JAXA)は12月14日、世界初をうたう「超広帯域マイクロ波計測技術」を発表した。1〜41GHzまでの帯域を単体でカバーできる新開発のアンテナを用いて、従来では不可能だった革新的な気象観測や地中探査に活用できるという。

▲新開発の超広帯域アンテナ

 マイクロ波によって物理量を計測し、対象物の状態や距離を測る「マイクロ波計測」には、能動的にマイクロ波を照射して、反射や散乱を計測する「レーダー技術」と、対象物が放射するマイクロ波を受動的に観測する「放射計技術」の2種類がある。

 このうち「放射計技術」は衛星からの気候観測などに用いられている。自然界に存在する水分子(H2O)は、雲や水蒸気、雨、海水、海氷、河川、土壌、植生、積雪など、さまざまな状態や形状、温度で存在しているが、その状態に応じて微弱なマイクロ波を放出しており、これを観測することで気候を把握できる。

水分子の「状態や形状、温度に応じて微弱なマイクロ波を放出する」という特性を利用している

 JAXAが今回発表した超広帯域マイクロ波計測技術では、マイクロ波帯のうち、1GHzから41GHzまでの広帯域を単体でカバーできる「超広帯域アンテナ」を活用する。

 従来のアンテナは下限と上限周波数の比が10倍程度だったが、同アンテナでは40倍に拡大した。アンテナを開発したアルモテック(京都市中京区)によると、このような超広帯域特性と観測視野一定を両立させたアンテナは世界初だという。

▲従来の高帯域アンテナとの比較

 さらに、マイクロ波を毎秒280回もの処理速度でデジタルデータに変換できる、エレックス工業製の「超高速デジタル信号変換技術」(川崎市高津区)も活用する。

 JAXAは前述の超広帯域アンテナと、超高速デジタル信号変換技術を組み合わせることで、マイクロ波観測技術に革新をもたらすとうたう「超広帯域電波デジタル干渉計(SAMRAI)」の開発を目指す。

▲2つの要素が超広帯域マイクロ波計測技術を支えている

 SAMRAIを人工衛星に搭載することで、これまで難しかった数kmメッシュでの気象データが得られるという。さらに、広帯域となったことで、海面水温や海上風速に加え、海面の塩分濃度も同時に観測できるようになり、漁場分布予測の高度化といったスマート漁業に貢献できるという。

 また、広帯域にわたる連続したスペクトルでマイクロ波を観測することで、人工電波による影響を排除し、観測精度を高められるという。

▲超高分解能かつ高精度の気候観測を実現する

積乱雲の発生から衰退までの一気通貫観測も可能に

 同技術は人工衛星に限らず、地上に設置する気象レーダーにも活用できる。従来の気象レーダーは雲、雨、雨粒のいずれかの量しか捉えられなかったが、超広帯域アンテナを用いることで、雲、雨、雨粒のすべての量に加え、水蒸気量も一度に捉えられるようになるという。

 こうした特性を生かし、ウェザーニューズは同技術を、これまで難しかった積乱雲の発生から衰退までの一気通貫観測に役立てるという。また線状降水帯の予測にも役立つとしている。さらに日本航空は、同技術によって「空飛ぶクルマ」が飛行するような低高度での精密気象観測が可能になると期待を寄せる。JAXAはこのように、同技術の民間利用も後押しする。

▲雲・雨・霧粒の全ての量に加え、水蒸気量も捉えられるようになる

携帯基地局の発する電波で地中探査や地表変位も観測可能

 さらに、同技術には地中の埋設物の探査や、地表変位の観測にも活用できるという。

 スマートフォンと通信する携帯基地局など、公共空間を飛び交うあらゆる方向や周波数、強さの電波を活用することで、対象地点に能動的にマイクロ波を照射しなくても、地中の埋設物の探査や、地表変位の観測が可能だという。建設工事に活用したり、土砂崩れの事前の予測も可能になるとしている。

▲公共空間にあふれる電波を使って、地中の埋設物や表面変位を多面的に検知できる

 JAXAや各社は、10年後の実用化をめざし、超広帯域マイクロ波計測技術の開発進める。

▲超広帯域マイクロ波計測技術で実現する未来

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