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部署横断で「宇宙プロジェクト」進める東京海上日動–「宇宙港」で注目の大分県と進む「宇宙×地方創生」の未来

2023.03.31 13:00

藤川理絵

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宇宙への挑戦に寄り添う東京海上

 「宇宙は、人々の挑戦であり、障壁やリスクはつきもの。保険会社の参画は必要不可欠だ。OSFCが立ち上がると聞いた瞬間、いの一番に駆け込んだ」と話すのは、東京海上 大分支店の山本氏だ。大分支店で損害保険の営業に従事する傍ら、「宇宙にかかわる仕事をやりたい」と宇宙プロジェクトにも手を挙げ、二足のわらじで活動中だ。

 先にまとめたように、東京海上は、1970年代から宇宙保険の提供やリスクコンサルティングを行ってきた。最近では、月面探査に提供を開始した「月保険」など、宇宙特有のリスクを切り口とした新たな保険商品やソリューションも提供している。一般的な損害保険商品の提供を通じて、全国の多種多様な企業との豊富なネットワークを持っており、山本氏はOSFC加盟に勝機を見出したという。

東京海上 大分支店 山本英佑氏
東京海上 大分支店 山本英佑氏

 「中長期的な目線で見ると、宇宙への挑戦を支援している東京海上という認知を高めることはとても重要で、OSFC加盟は重要な一歩になると考えた。一方で、我々は営利企業。売り上げにつながるのか、という点は確かに問われたが、宇宙がきっかけに東京海上ができることに興味を持っていただき、一般的な保険やリスクコンサルなどもお任せいただくという、既存事業との相乗効果を示せたことで、社内の理解も得られた。実際に、OSFCで出会った企業さんの中には、衛星データビジネスの話で新たに接点を持ち、自動車保険のお取引につながった事例もある」(山本氏)

 OSFCでの出会いを通じて、「宇宙食を作れないか」などのアイデアを持つ地元企業と、深く交流できているという。「宇宙ビジネスを起点にした地方創生と、その地域のパートナーとしての東京海上」という目指すべき将来像がより明確になったという。

 山本氏は、2022年4月に開始した宇宙プロジェクトにも参画。部署や地域も横断でチームを組み、本業と並行して精力的に活動している。

 例えば、東京海上の宇宙領域での取り組みについて広く知ってもらうために企画書「宇宙の挑戦を考える皆様へ」を作成した。

 衛星データやデジタルを活用した気候変動対策や防災・減災の災害予測精度の向上など、地域の課題解決に向けた取り組みでは、赤潮の発生を未然に予測できるシステムを構築するとともに、衛星データを活用した損害サービスの効率化や迅速化なども手がけている。

 「大分県内で、宇宙ビジネスに参画したいという企業さんは、すごく増えてきた。けれども、何ができるのか分からず悩んでいる方や、リスクを抱えることに不安を感じる方も多い。そんなとき、さまざまなビジネスの可能性を提示しつつ、保険を通じて挑戦を後押しできる、地域社会のパートナーになっていきたい、というのが私の願いであり、東京海上として目指している姿でもある」(山本氏)

大分空港のロビーの様子(2022年8月撮影)
大分空港のロビーの様子(2022年8月撮影)

大分県で広がる「宇宙で地方創生」のいま

 いま、大分空港が宇宙港になると決まってから、約3年が過ぎようとしている。最大の変化は「宇宙港は、企業を誘致して、そこに雇用が生まれるというモデルではなく、新たなサービスを自らが創っていくという理解が広がってきたこと」(高山氏)だ。

 最初は「国東のための誘致ではないか」という反応だった周りの各市町も、いまでは宇宙港をきっかけに地元を活性化しようと、具体的な検討を始めているという。

 例えば、玖珠(くす)町では、献上米に選ばれた「ひとめぼれ」や町内で生産される「ヒノヒカリ」を衛星データ活用によってブランド化して、宇宙港経由で海外へ輸出することで、グローバル展開や高付加価値化を狙っている。将来的に宇宙経由の高速物流が実現すれば、朝採れの海産物も数時間後に海外市場で販売できる。

 ロケットを打ち上げるときには、近くでロケットの打ち上げを見ることや宇宙ビジネスの関係者だけでなく、世界中から航空機ファンの宿泊も期待できる。

 宇宙関連企業のエンジニアの居住や幹部への接待なども含めて、衣食住や娯楽サービスの提供も需要が見込まれる。そして、政府や企業の要人や富裕層にいかに大分県を周遊してもらうか、新しい観光ルートの策定も求められる。

 「自分のアイデア次第で、新しい仕事を作り出して、自分がオーナーになれる。大分県内では、宇宙港をきっかけに新しいビジネスを興そう、という動きが活発化している。こうした思いに賛同いただき、一緒に支援してくださる東京海上は素晴らしいパートナー」(高山氏)

巨大な“集合体としての宇宙産業”へ

 大分県でのこうした動きは、九州全体にも広まりつつあるという。大分空港には水平型宇宙港が、鹿児島県の種子島には、JAXAの「H-IIA」「H3」などのロケットを打ち上げる種子島宇宙センターがある。小型衛星を開発して打ち上げ、衛星データの提供を手がける企業や水産業などの一次産業で衛星データを活用する動きもある。

 OSFCには全国各地から「大分県での宇宙ビジネスへの取り組みを教えてほしい」と講演依頼やヒアリングが相次いでいるという。「九州以外だと、愛知県や静岡県、長野県などは積極的に動かれている印象だ」(高山氏)

 いま宇宙産業も、国主導から民間主導のビジネスに移行が進みつつある。そして、宇宙産業とは、ロケットを打ち上げるだけではなく、保険然り、宇宙食や宇宙服、化粧品など多岐に渡っており、高山氏は「既存産業が少しずつ宇宙に関連する事業を手がけることで、巨大な“集合体としての宇宙産業”ができていく」と指摘する。

 今後は、大分県発の「宇宙港をきっかけとした地方創生」が日本全国で加速し、「その地域のパートナーとしての東京海上」という座組みが広がっていきそうだ。

 「スタートアップ企業や中小企業も、宇宙ビジネスを考えられるようになった。東京海上は、宇宙に関するナレッジと全国ネットワークを生かして、お役に立っていきたい」(山本氏)

(左から)東京海上日動火災保険 大分支店 山本英佑氏、一般社団法人 おおいたスペースフューチャーセンター 専務理事 高山信久氏

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